第18回夏のオンライン54ら読書会 2024.8.23
【参加者】
篠原泰司(一文)、加藤透(理工)、山口伸一(理工)、福島碧(社学)、沖宏志(理工)、石河久美子(一文)、首藤典子(一文)、仁多玲子(商)、日比野悦久(理工)斎藤悟(社学)、宮田晶子(政経)
(以上11名、敬称略)
猛暑続きだった2024年の夏。当日の最高気温はそこまでではなかったものの、湿った空気に覆われ、蒸し暑い1日だった。しかしその鬱陶しさを吹き飛ばすかのように、いろいろなジャンルの本が紹介され、今回も楽しい時間を過ごすことができた。今回、文庫化されて異例のヒットとなっているガルシア・マルケスの『百年の孤独』を取り上げた方が複数いて、その壮大な物語を熱く語っていたのが印象的だった。(発表順、文体は常体に統一)。
なお、これまでの 読書会報告集、Book List、もご覧いただけます。
〇篠原泰司(一文)
『暁の宇品』堀川惠子、講談社 2021年
(『暁の宇品』堀川惠子、講談社文庫 2024年)
太平洋戦争において呉が海軍の乗船基地であったことは知っていたが、広島市の宇品に陸軍の乗船基地があったことは、この本を読むまで知らなかった。宇品の存在が広島への原爆投下に至る最大の要因であるらしいのだが、しかし、その宇品の存在そのものが忘却の彼方に消え去りそうになっていたらしい。「本書は宇品に生きた三人の軍人が残した未公開資料などを発掘、分析し知られざる宇品五十余年の変遷をよみがえらせる」(文庫P11)ものである。太平洋戦争戦史という側面のみならず、戦後の日本のあり方にまで深い洞察の光を与えてくれる一冊だ。2021年に出版された本書は大佛次郎賞を獲得し、2024年の今年7月に文庫本になった。12月にはNHKのスペシャル番組も企画されている。
『決定版カフカ短編集』フランツ・カフカ/頭木弘樹編、新潮文庫
カフカの小説は私の高校生の時の愛読書だった。その小説のほとんどは読んでいた。その中でも短編小説は特に好きだった。しかし、それ以後今に至るまで読むこともなく遠ざかっていた。意図的に遠ざけていたわけではなくいつか再読してみたいと思っているうちに長い年月が過ぎてしまったのだ。それが没後100年の企画として新潮社から刊行された短編集を目にして再び読み始めるきっかけをつかんだような気になって、50年ぶりに読んでみた。読んでみて気が付いたことはその凄さだ。特に「流刑地にて」はこんな小説だったっけ?「断食芸人」にはこんなに凄みがあったけ?という風に。とにかく驚いた。50年前、私は何を読んでいたのだろう。本当にカフカの短編には面白いものが沢山ある。
『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア・マルケス/鼓直 訳、新潮文庫
「百年の孤独」は10年前ぐらいに単行本(ハードカバー)で読んだのだが、今年の6月に文庫になったのを機に読み直した。初めて読んだ時よりも面白く引き込まれてしまったのは何故なのか?物語のスケールの大きさとその幻想性を称してマジックリアリズムと言うらしいが、そんな月並みな表現では表せないほど凄まじい小説だと思う。今まで4000円ぐらいの値段の本で手を出しにくかったのが、文庫になって1250円。よくぞやってくれた。
〇加藤 透(政経)
『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア・マルケス/鼓直 訳、新潮文庫
突如出版された百年の孤独。社会現象に近い売上げを継続している。是非お読みいただきたい。テーマはラテアメリカの一つの集落の変遷であり、小さな個人とマクロな歴史が往還して進んでいく。膨大なエピソードを内包しながら。しかし自然主義的な叙述ではなく、幻想と現実が混淆する、マジックリアリズムで描かれている。
〇山口伸一(理工)
『オパールの炎』 桐野夏生、中央公論社
1967年、中絶とピル解禁を訴えた中ピ連創設の榎美沙子を描いた作品。彼女の過激な活動は面白かったが、標的となった男性や家族は悲惨であった。その後、選挙で落選してからは世間の耳目から遠ざかったが、その理由を桐野流の味つけで読ませる。
ピルは女性の社会進出の一助となったと言われている。榎の主張は早すぎたのかもしれない。
〇福島 碧(社学)
『関ヶ原』(上中下)司馬遼太郎、新潮文庫
家康のサクセスストーリーの検証が面白い。「人に働いてもらう」家康と「人に働いてもらえない」三成の比較。その原因を突き詰めていくと、その育った場所が農村部か商人の世界かも、少なからず関係しているのかもしれないと思ったりした。
40代で読んだ「項羽と劉邦」(司馬遼太郎著)以来の痛快小説だった。
『家康』(1〜8巻)阿部龍太郎、幻冬舎時代小説文庫
かつての部下であり、その後、秀吉方へ寝返った石川数正との再会の場面には、泣けてくる。
それにしても、家康の部下への報奨の額の大きさにはびっくり! 著者は、常に報奨の金貨を現在の円に換算して記しているので、「そんなにあげるんだ!」と驚いた。
1955年生まれの阿部氏の今後の著作が楽しみだ。
〇沖 宏志(理工)
『あの頃ぼくらはアホでした』東野圭吾、集英社
ベストセラー作家東野圭吾の自叙伝的本。
同世代なので様々なアジェンダを共有できて、実におもしろい。
ゴジラ・ウルトラQ・ウルトラマンといった怪獣物の話。
「燃えよドラゴン」や「ビートルズ」など、はまったものの話など。
しかし、私よりかなりワイルドな中学・高校時代を過ごしたようだ。
大学でのグループ実験の話もワイルドだった。
〇石河久美子(一文)
『どうしても頑張れない人たち』宮口幸治、新潮社
昨年の読書会で報告した「ケーキの切れない非行少年たち」の続編。著者は児童精神科医。
境界知能や軽度の知的障害がありながら見落とされ、はたから見ると怠けているように見える頑張れない人たちはどういう人たちか、どう支援したらいいかをわかりやすく説く。
頑張れない人たちは認知機能が低く見通しが弱いため目標が立てられないことが多い。
支援する上では、頑張れない行動の背景を考え、寄り添い、必要に応じてチャレンジできる機会を提供することが求められる。
著者も指摘しているように日本社会は、「頑張っている人を応援する」頑張ることが美徳とされる社会、その在り方についても考えさせられた。
〇首藤典子(法)
『ヒルビリー エレジー』J. D. ヴァンス、光文社未来ライブラリー
トランプ氏が次期米副大統領候補として紹介したヴァンス氏がベストセラー作家ということだったので、アメリカではどのような本が人気なのか興味が湧いた。ヒルビリーとは元はアイルランドからアパラチア山脈周辺のケンタッキーやウエストバージニア州に住み着いた移民であり、かつて製鉄業が盛んであった頃、ヴァンス氏の祖父が製鉄所に職を得たのをきっかけにオハイオ州に一家で移住する。このような人たちは中流の生活を会社が保証し社会福祉の充実した暮らしをしていたが、製鉄業の衰退と共に、人々の生活も廃れていく。このRust Belt(錆びた地域)から抜け出てエール大学法科卒業後弁護士となった氏が議員事務所で働いた後議員になっていく。自身の生い立ちを忠実に描いたという作品、アメリカの繁栄から取り残された白人達が仕事もなく生活保護を受け、ドラッグ、アルコール漬けになる悪循環から脱け出せない、希望が持てないことへの怒りをツイッターに上げたことで、トランプ氏が着目、「アメリカを再び偉大にしよう」と呼び掛け支持層の基盤が造られた。成熟した資本主義、民主主義のもたらした光と影。大統領選の行方が気になるところである。
〇仁多玲子(商)
『ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 枕草子』清少納言/角川書店編、KADOKAWA(角川ソフィア文庫)
現在、NHKで、紫式部のドラマ「光る君へ」をゴールデンタイムで放送している。
今まで、平安時代のドラマは、あまりなかったので、毎週楽しみに見ている。ところで、紫式部は「源氏物語」だが、ライバルの清少納言は「枕草子」。私は、いままで、「枕草子」を読んだことがなかったので、一度読んでみたくなった。ネットで探して、一番手頃な本を探したのが、今回紹介した本。
この本は、現代語訳・原文・解説が短編ごとに付いていて、初心者向け。値段も手頃で、手に取りやすい本ということで、今回紹介した。
〇日比野悦久(理工)
読書会での皆さまから紹介される内容は興味深いし、それらの内容から皆さまが常日頃 思索されているお話を伺うことができ、それだけで改めて視野を広げる貴重な機会を頂けてます。
〇斎藤悟(社学)
本を読む時間ない状況でレベルの高い異次元空間に浸り、我に帰る貴重な時間になって居ります。皆様有難う御座居ます。
〇宮田晶子(政経)
『基本季語500選』山本健吉、講談社学術文庫
俳句を細々と続けている私には、歳時記は必需品。しかし、歳時記における季語の説明は通り一遍で、それと例句が並んでいるだけ。季語の深い意味を知ってこその俳句作りと思うので、物足りないところがあった。本書は、文芸評論家の山本健吉氏が500の季語を選んで、その古典をめぐる圧倒的な知識から解説し、例句を挙げている。500というのは膨大な季語の数からすれば少ないかもしれない。しかし取り上げられている季語については、本当に深い知識を得られる。
*次回は、前田由紀さん(一文)の司会で、11月22日(金)秋の54ら読書会を予定しております。