2024/02/16第16回冬の読書会報告

0216第16回冬のオンライン54ら読書会
2024. 2.16

【参加者】
篠原泰司(一文)、福島碧(社学)、加藤透(理工)、
沖宏志(理工)、首藤典子(一文)、内田大雅(二文)、
露木肇子(法)、仁多玲子(商)、石河久美子(一文)、
斎藤悟(社学)、前田由紀(一文)宮田晶子(政経) 
(以上12名、敬称略) 

なお、これまでの 読書会報告集Book List、もご覧いただけます。

〇篠原泰司(一文)

 『源氏物語』①~④  紫式部、角田光代訳 河出文庫 古典新訳コレクション 

 以前、原文(古文)で源氏物語を読んでいたことがあって、途中で止めてしまったことがある。いつか再開しようとずっと思っていたところ、今年(2024年)のNHK大河ドラマが紫式部をテーマにしているので、これを機に源氏物語への再挑戦を決意した。

 いずれ原文(古文)で読むにせよ、先に大まかに物語の全体像を現代文でとらえておいた方がいいだろうと、再開してみて感じた、それで角田光代の現代語訳を読むことにした。

 では、多くの女流作家の現代語訳があるなか、なぜ角田光代なのか?

 第一にオリジナルにかなり忠実な訳であるという印象があること。第二に物語中の和歌の解釈が比較的しっかりしている感じがあること。そして、第三は現代の小説を読んでいる感じがして、楽しく読めるような気にさせてくれるところである。

 今は文庫③の「少女(おとめ)」のところを読んでいる。

 『世界はラテン語でできている』 ラテン語屋さん SB新書

 私自身はラテン語にはもともと興味があるので、この本を読むことには全く抵抗がないのだが、なぜベストセラーになるくらいに買われて読まれているのかよくわからなかった。しかし、読んでみてその理由がわかったような気がする。あの「ハリーポッター」では多くのラテン語が登場するらしいのだ(私は「ハリーポッター」を読んだことがない)。また、この本は語学学習者だけに書かれたものではない。どちらかというと歴史や地理についての教養書という趣がある。これも売れる理由か?

 実は我々の日常生活に入り込んでいるラテン語がとても多いことが、読んでよくわかった。語源的に考えれば、欧米系の言語としては英語の次くらいに日常生活に入り込んでいる。例えば、アリバイ(他の場所)はALIBIから。エトセトラ(他のものたち)はET  CETERAというように。

 この本を読めば、世界の歴史及び地理的なことがらが、今までよりも深く理解できるようになるだろう。

〇福島碧(社学)

 『天地明察 上下』 冲方丁 角川文庫 

 以前、この読書会で、冲方丁の『光圀伝』を紹介され、その後、この「光圀伝」が非常に面白く読ませていただいたので、同じ著者の本を読んでみた。この「天地明察」は、暦を作った人の話。主人公の「とにかくくじけない」姿勢に、深く感銘を受けた。

 また、「カラン コロン」ーこれは、主人公が初心に返る時の心の音と思われるが、さらに進んで他の意味も含まれているのでは?天に向かって聴いているのでは?と思ったりした。

 『虜人日記』 小松真一 ちくま学芸文庫 

 こちらも、以前この読書会で、「一下級将校の見た帝国陸軍」山本七平著を紹介いただき、読ませていただいたところ、その中でたびたびこの「虜人日記 小松真一著」が引用されていたので、読んでみた。

 著者の小松氏は、戦時中、戦地でお酒を作るために東南アジアへ赴任した方。戦時中、出征した兵隊さんたちが、アジアでどんな暮らしを実際していたかがよくわかった「ひどいなあ」が感想。

 著者は、帰還後、戦時中のことは一切語らず、この本も、出版を目的とせず、小松氏が亡くなった後、一周忌に記念として親しい方に渡したところ、評判となって出版された。著者は、戦地の記録として、すべてこの日記に書き残したものと思われる。

『理想はいつだって煌めいて、敗北はどこか懐かしい』史明・田中淳(構成)、講談社

 2カ月に1回、東京芸術劇場でブランチコンサートをマゴと楽しんだ後、決まって池袋西口の人気中華料理店「新珍味」(史明氏が作ったお店)で台湾ラーメンを食べるだが、そこにこの本のポスターが貼ってあり、取り寄せて読んでみた。この本は、台湾の前総統である蔡英文が推薦している。「史明おじさんは、誰よりも強い行動力を持つ人です。彼の物語は、台湾、日本、中国の激動の歴史そのものです」

 中国大陸のスパイだった史明氏が、どこで何が原因で台湾独立派へ転換したのか、それを知りたくて読んだ。十分な答えを得ることができたように思う。

〇加藤 透(理工)

Permaculture: A Designers’ Manual, Bill Mollison, Tagari Publications Australia

『パーマカルチャー菜園入門』設楽清和 家の光協会

 パーマ・カルチャー農園の本について報告したが、何か、自分の趣味優先のようで、反省している。しかし、この「地上の楽園」とも例えられた、有機農園の最盛期に訪問することができたのは、幸運だったというしかない。みなさんも、このような農園があったことを覚えておいてほしい。

 次回以降、美学、農学からは離れ、このお集まりを活用して、40年ぶりに小説を取り上げて、読んで感想を報告したい。よろしくお願いします。

〇沖 宏志(理工)

『こころを旅する数学』ダヴィット・ベシス 晶文社

・数学においては脳内イメージの構築が重要。

・「天才数学者」と我々の違いは、「脳内に知覚イメージを構成する方法を知ってるか、知らないか」だけ。

脳内イメージを自由に展開する訓練を通じて数学する能力は向上させられる。

・数学的アプローチは頭の中のヨガのようなもので、数学は脳に作用し、世界の見方を変える。数学は、指せないものに正確に話す試みのうち、人類唯一の成功例。

…というような事を言っていて実におもしろい。

〇首藤典子(一文)

80’s エイティーズ ある80年代の物語』橘 玲 幻冬舎文庫

「マネーロンダリング」 「タックスヘイブン」の著者が過ごした80年代を書いたもので、70年代後半に在籍した第一文学部で一部重なる世情、新宿、高田馬場界隈の当時の風景に頷きながら、著者の歩んできた出版業界での仕事、生活の様子、キャリアを重ねて彼自身が変わっていく姿、どのように成功を納めていったかを知り、濃い人生を歩んできた人だと、同郷の誼もあり嬉しくまた誇らしくも思える。

 また、オウム真理教への潜入取材を試みたり、ドラッグに溺れていった同業者や、仕事の苦しさから仕事も家族も失い放浪していく編集仲間と関わったりしながら、それに感化されることなく、小説執筆の境地に至っていく、危ないながらも客観視できる強さがあればこそ、と思える作品。

〇内田大雅(二文)

『「原因」と「結果」の法則』ジェームズ・アレン 坂本貴一訳、サンマーク出版

 デール・カーネギー、オグ・マンディーノなど、現代成功哲学の祖たちが、もっとも影響を受けた伝説のバイブルAs a Man Thinketh。聖書に次いで一世紀以上もの間多くの人々に読まれ続けている、超ロング・ベストセラー、初の完訳。

 この世は道理でできている。道理を無視して成功はありえない。

〇露木肇子(法)

『家庭裁判所物語』清永 聡 日本評論社

『三淵嘉子と家庭裁判所』清永 聡 日本評論社

 この4月からNHK朝ドラ「虎に翼」が始まる。ヒロインは、女性初の弁護士、判事、裁判所長となった三淵嘉子さんがモデルである。

 三淵さんは戦前法学部で唯一女性に門戸を開いた明治大学を卒業し、昭和13年に司法試験に女性として初めて合格し、昭和15年弁護士になる。昭和22年、まだ裁判官を男性に限る法律が改正される前に、彼女は裁判官採用の願いを出し、司法省は困って、とりあえず民法改正作業を手伝わせた。家制度をなくし、男女平等を基本理念とする現民法は、昭和22年に制定された。昭和24年にはGHQ提案の家庭裁判所が発足した。

 三淵さんは同年から地裁判事補になり、昭和37年に家裁に異動になる。そして、早稲田出身の宇田川潤四郎裁判官のもと、アメリカの家裁をモデルにした、独立的・民主的・科学的・教育的・社会的家庭裁判所を実現すべく奮闘する。本書には、この経緯が資料に基づいて詳細に書かれている。

 家庭裁判所には、今多様な問題が持ち込まれている。DV・モラハラ・虐待を理由とする離婚や親権争い、LGBTに関連する問題等である。これらは人の命や生き方に直接関わってくる。

 今後親権等について民法改正となれば、ますます複雑化・深刻化することが予想される。およそ家裁の現体制で処理できるとは思えない。裁判官も調査官も研修も庁舎も明らかに不足している。

 家裁の機能が大きな問題となっているいま、「虎に翼」が発足当時の理想に燃える家裁をどのように描くか、今からとても楽しみである。

〇仁多玲子(商)

『終止符のない人生』反田恭平 幻冬舎

 この本は、反田恭平の自伝のような本。小さい頃、ピアノを弾くようになった経緯から始まって、ショパンコンクールで2位入賞するまで、自分の観点から詳しく語られている。

 子供の頃は、父親の影響が大きかったようだ。父親に反発しながら、ピアノの道に進むようになった。成長してからは、優秀な師につながり、いまの反田恭平が出来上がったと言える。

 やはり、何かで名をたてる人は、才能も必要ですが、運も必要なんだということが、よくわかる。

 そして、最後にショパンコンクールだが、やはり、外国人の審査員、聴衆に受けられるよう、日本人、「侍」を意識してピアノを弾いたようだ。そういう意味で、反田さんは、演出力もあったと思われる。

 いろいろな意味で、反田恭平というピアニスト、彼は、これからは小さいころから夢だった指揮者になろうと努力しているようだが、彼を見守りたいと思う。

〇石河久美子(一文)

『最後の授業-心をみるひとたちへ』北山修 みすず書房

 著者はフォーククルセダーズのミュージシャン、「帰ってきたヨッパライ」の作詞家であるが、その後、精神分析の専門家になり九州大学教授となる。本書は、九州大学での最終講義を中心に、学生たちに伝えたいことや彼の精神分析感をまとめたもの。作詞家は人の心を言葉でなぞる仕事だから、人の心を言葉で取り扱う臨床心理学の精神分析を選んだとの転身のいきさつに納得。

 昔話や神話を精神分析に活用する方法を取っており「鶴の恩返し」に思い入れがあるようだ。異類婚姻説話は西洋にもあるが、正体がばれても去らずハッピーエンドになる話が多いといった物語の読み解き方も新鮮で面白かった。

(映画)『JFK 新証言 知られざる陰謀』オリバー・ストーン監督(2021年) 

 ケネディ大統領暗殺にまつわるドキュメンタリー。同じくオリバーストーンにより1992年に作成された「JFK」は、豪華俳優をそろえ事実とフィクションを織り交ぜた社会派エンターテイメントであったが、こちらは新たに公開された文書や関係者へのインタビューを元にストーンの仮説を緻密に検証していく。情報量が多く当時のアメリカの立ち位置、世界情勢に関する知識不足のため、未消化に終わったが、底知れぬ闇の深さを感じた。頭をフル回転させて観るべき作品。

〇前田由紀(一文)

『百年の子』古内一絵 小学館

 小学館は、いまでこそ総合出版社だが、名前でも分かるように創業当初は、小学生用の学習雑誌学年誌から始まった出版社である。関東大震災前年に創刊された。私たち昭和世代では、おなじみの雑誌だと思うが、私も学年誌「小学〇年生」の毎月号の発売を楽しみにし、家族と一緒に付録を組み立てたことを思い出す。これは、創立百周年を迎えるにあたって、編集部が、小学館の歴史を振り返る小説となっている。特に戦時下での記述に重きがおかれ、著名な作家たちが執筆し、国策雑誌として志願兵を促すメディアとなっていたことにも気づかされた。メディアの罪深さも世相を反映したとはいえ事実として知っておくべきである。

(映画)『ゴジラ-1.0』山崎貴VFX・脚本・監督 東宝

 ゴジラ生誕70周年記念作。前作『シンゴジラ』も面白かったが、今回欧米でもかなり人気があるということで先月鑑賞し、その理由を実感した。VFXでは、職人技ともいえる丁寧な作りで、海の波形には、1年間費やしたという。スタジオの若手が精巧な作りに大きく貢献したことも知り、うれしくなった。『ゴジラ対モスラ』を子供時代に観て特に印象に残っていて、力強いテーマ曲が懐かしく、感動した作品となった。54ら会の皆さま、必見!

〇宮田晶子(政経)

『鎌倉の名建築をめぐる旅』内田青蔵、中島京子 エクスナレッジ

 私は建築が好き。専門的な知識はほとんどないが、古い建物に入ると、そこに生きた人々の暮らしや思いが垣間見られるような気がして、興味深い。この本は私が住む鎌倉にある名建築を近代建築史が専門の内田氏と『小さなおうち』で直木賞を受賞した中島氏が巡り、建築的な解説を内田氏が担当、中島氏は鎌倉と建築をめぐるエッセイを寄せるというスタイルになっている。本を手に取った時は、鎌倉の古い洋館の紹介本かと思ったが、建長寺や鶴岡八幡宮などの寺社、近代美術館などの新しい建築についての解説もある。写真が多く、見ているだけで楽しいが、中島氏のエッセイや両者による対談も面白い。最近のタワマンなどは和室がない物件も多く、「6畳」と言っておおよその大きさが共有できる日本人の感覚が失われるのは勿体無い、という指摘が興味深かった。