2023/08/25第14回夏の読書会報告

2023.8.25

【参加者】

篠原泰司(一文)、村山豊(法)、鈴木伸治(商)、内田大雅(二文)、石河久美子(一文)、沖宏志(理工)、露木肇子(法)、山口伸一(理工)、前田由紀(一文)、斎藤悟(商)、仁多玲子(商)宮田晶子(政経)

(以上12名、敬称略)

 54ら会のオンライン読書会、3ヶ月ごとの開催で14回目を迎えました。今回は常連の皆様に加え、初参加の方がお一人いらっしゃいました。読書会の仲間が増えるのは嬉しいことです。

 以下は当日、挙げていただいた本を発表者のお名前とともに紹介いたします。推しの本について、それぞれ長いコメントをいただいており、それをそのまま(文体は常体に統一しました)掲載しております(順不同)。

なお、これまでの 読書会報告集Book List、もご覧いただけます。

1 篠原泰司さん(一文)

『一下級将校の見た帝国陸軍』 山本七平(文春文庫)

 1980年に出版された本ではあるが、現在も愛読者が多くぜひ読んでみたいと思っていた本。

一下級将校としての自己の従軍経験をとおして見た日本人の心性や日本的組織への洞察が素晴らしい。戦後78年を経過しても日本人と日本社会は、悪い意味でその本質を変化させずにいるのだと感じさせられた。

『マイ・ブロークン・マリコ』 平庫ワカ(KADOKAWA)

 昨年(2022年9月)に映画化され、023年8月29日現在Amazon Primeで無料視聴が可能。

「布団の中から蜂起せよ」という本で取り上げられていて興味を惹かれてコミック本を購入したのが数か月前。最近Amazon Primeで映画も視聴。なかなかの出来だと思った。

 主人公シノイトモヨが、父親からのDVの末に自殺した友人のマリコの骨壺を強奪して、東北地方にある「まりがおか岬」まで行って散骨するまでの話。ロードムービーである。シスターフッド(女性同士の連帯)の文脈にDVを置くことで新しい視界(希望?)が開かれたような気がした。「布団の中から蜂起せよ」p.83で高島玲が「物語が必要だ」と述べていることの意味はこういうことなのかもしれない。

2 村山豊さん(法)

『風と共に去りぬ』 マーガレット・ミッチェル(新潮文庫)

NYMC男声合唱団の演奏会準備で南北戦争に興味を持ち、「風と共に去りぬ」を初めて「いまさら」読んだ。南北戦争が太平洋戦争と酷似していると感じる一方、女性視点(妻、義妹)とのギャップが興味深い。レット・バトラーは素敵だがありふれたタイプ、スカーレットは可愛いが性格的に私には耐えられないと感じた。多面的なテーマ(恋愛、南北問題、黒人問題)と強烈な南部英語の表現が印象的で、原文も確認してみたいと思う。  例えば「命令形+さもないと『生皮を剝がしてやる』『尻を蹴っ飛ばしてやる』」等々

3 鈴木伸治さん(商)

『農業問題−TPP後、農政はこう変わる』本間正義(ちくま新書)

 相続した農地は、農地としてしか利用できず、賃貸・譲渡も農業者にしか認められていないと聞いていたので、農地に係る規制の内容について、市役所の農業委員会に聞きに行ったところ、「農地に係る規制を取りまとめた資料はなく届出書があるだけで、根拠となるものは法令で法令にあたってほしい」との回答であった。そのため、農地規制の解説書を探したが見当たらなかったことから、まずは日本の農業に関する本として読んだもの。

 日本の農業は、戦後の農地改革によって農地を小作農に解放したため小規模家族経営の農家を増大させ、それを保護するため現状でも農地の所有は農業者に限られ、法人は農業者が決定権を掌握する農業生産法人にのみ認める制度になっている。このため、農地が英国の1/40、フランスの1/20程度と小規模な農家がほとんどであるという日本農業の問題解決を阻害している。

 ただし、日本の農家は兼業農家が大層を占めて貧しくはないことから小規模優遇政策を支持しており、さらに農業協同組合は組合員や取扱高、政治家は農村票、農水省は予算の維持のため小規模優遇策を推進することになる。

『高慢と偏見』ジェイン・オースティン著 大島一彦訳(中公文庫)

 14年前に「自負と偏見」中野好夫訳を読んで高評価の記録を残しているものの記憶に残っていないことから、再読するために最近の訳本を比較して自分の世代に適っているのではないかと思い紹介したい。(注)次の冒頭の訳はあるWebに掲載されていたもの。

・中野康司訳、「高慢と偏見」ちくま文庫(2003年)

 金持ちの独身男性はみんな花嫁募集中にちがいない。これは世間一般に認められた真理である。

・小尾芙佐訳、「高慢と偏見」光文社古典新訳文庫(2011年)

 独身の青年で莫大な財産があるといえば、これはもうぜひとも妻が必要だというのが、おしなべて世間の認める真実である。

・小山太一訳、「自負と偏見」新潮文庫(2014年)

 世の中の誰もが認める真理のひとつに、このようなものがある。たっぷり財産のある独身の男性なら、結婚相手が必要に違いないというのだ。

・大島一彦訳、「高慢と偏見」中公文庫(2017年)

 独身の男でかなりの財産の持ち主ならば、必ずや妻を必要としているにちがいない。これは世にあまねく認められた真実である。

4 内田大雅さん(二文)

『死の講義』橋爪大三郎 ダイヤモンド社

 この本のテーマは死である。著者曰く、「日本人は死ぬということがどういうことか分かってない人がほとんどだ。それは言い換えれば、生きるとはどういうことかということが分かっていないという可能性が高い。この機会に死を鏡にして、自分の生きているいうことを照らし直してみよう」この本は僕が僧侶を目指して修行を積んでいたときに読んで、とても勇気づけられた。

5 石河久美子さん(一文)

戦争花嫁に関する本を2冊紹介した。

『非色』有吉佐和子(河出文庫)

 黒人兵と結婚した主人公が、混血児を日本で出産、その肌の色などで差別されることから、夫の住むニューヨークに移り住むが、そこはハーレム、稼ぎの悪い夫と次々生まれる子どもを抱えながら、貧困の中で生き抜く姿が描かれる。また、白人と結婚し裕福な生活をしていると思っていた戦争花嫁の知人が、アメリカ社会では、黒人より下に位置づけられるプエルトリコ人と結婚して自分よりさらにひどい生活をしていた顛末などが描かれる。アメリカの社会階層、人種問題の複雑さがストーリーを通して浮き彫りになっていくパワフルな作品。

『花嫁のアメリカ』成常夫(論創社)

 写真と文章を組み合わせたフォトノンフィクション。1970年代後半、100名余りの戦争花嫁を撮影取材、さらに20年後、その後の花嫁たちの動向を追ってまとめたもの。文化や言語の違う異国で離婚しシングルマザーになったり、「非色」の主人公のように黒人と結婚して差別や偏見にさらされたりの過酷な人生が本人たちの言葉で淡々と語られる。戦争花嫁たちは生きていれば大半が90代、すでに鬼籍に入った人も多い。花嫁たちの実態を記した貴重な記録である。

6 沖 宏志さん(理工)

『老神介護』劉滋欣(角川書店)

 5つの短編集。『地球大砲』は、主人公が「世界を破滅に導く男の子」で、野心と創造力をあわせ持つ。この男の子は中国、もしくは中国共産党を連想させた。「一党独裁全体主義」と「イノベーション」を今のところあわせ持つ中国が世界を破滅に導かないことを願う。

「扶養人類」は、貧富の格差がますます拡大して、地球がほとんど一人の金持ちの私有財産になってその金持ちが大衆に「地球から出ていってくれ」という話。ピケティの「テクノロジーの進化により、全人類の総需要が一人の人が半日働くだけでまかなえるようになった時、富の分配はどうするのか?」という問いかけに思いをはせた。

7 露木肇子さん(法)

『「赤毛のアン」の秘密』小倉千加子 (岩波現代文庫)

 1908年、カナダで、L・M・モンゴメリ作「グリーンゲイブルスのアン」が出版された。日本では1952年に村岡花子訳「赤毛のアン」の初版が出た。

 その後1979年にフジテレビがアニメを放映し、2014年にはNHKが朝ドラ「花子とアン」で村岡花子の生涯をとりあげ、2017年にはカナダで「アンという名の少女」というテレビドラマが始まり、現在もNHKBSで放映されているという人気ぶりだ。舞台となるカナダの片隅にあるプリンスエドワード島には、日本人観光客がひっきりなしに訪れ、日本で出版される写真集も多い。

 私も小学生からのアン・フリークで、モンゴメリの全作品を読破し、プリンスエドワード島どころか、モンゴメリが結婚してから15年ほど住んだトロント郊外のリースクデールまで訪れている。

 「赤毛のアン」にはいくつか謎があるが、最大の謎は、なぜ「赤毛のアン」は特に日本の少女に人気なのかである。

 またモンゴメリは、晩年はうつ病にかかり、1942年に67才で自殺したと言われているが、なぜモンゴメリは自殺に至ったのか、これが次の謎である。

 著者は早大院卒の心理学者であり、本著においてモンゴメリを冷酷に分析してこれらの謎に迫っているが、それはアン・フリークには時に怒りを覚えさせるほどの内容である。しかし、一方で、自己の矛盾を気付かせてくれる、私にはどうにも無視し難い本である。

8 山口伸一さん(理工)

『地図と拳』 小川 哲 (集英社)

 第168回直木賞受賞作。命をかけて満州の測量を描いた親子二代の技師の物語。

 ロシアの日本侵攻の恐怖にどう対抗するかで日本は満州の侵略を選択した。が、日清戦争で中国軍隊は恐れるに足りずと誤解した日本軍は、民衆の激しい憎悪からの抵抗に苦戦する。

 歴史上、外国との戦争や交渉の経験が浅い日本人に海外の統治は可能なのか。日本人が他人を使って事をなすマネジメント能力の低さを痛切に感じた。

9 前田由紀さん(一文)

『牧野富太郎自叙伝』牧野富太郎(講談社学術文庫)

 NHK朝の連続ドラマ「らんまん」のモデルとなった牧野富太郎の自伝である。日本植物分類学の草分けとして研究に邁進した軌跡は、実に面白い。土佐の旧家出身であるが、学問の盛んな土地柄で、十代前半で、福沢諭吉『世界国尽』、河元幸民『気海観瀾広義』等の日進の学問に触れ、英学もかなり早くから専門書を読んでいた。独学で植物学に関する書物を読み尽くし、精細な図解の技量も会得する。突出する才能は、大学では妬みの対象となり、冷たい処遇を受け、経済的にも困窮するが、土佐の岩崎氏など様々な篤志家が現れ、支援を受ける。最後まで一書生然として嬉々として研究に励み、採集で野山を駆け巡る姿は、清々しい。軽妙な語り口は、ユーモアにあふれている。家族の手記もあり、昭和天皇へのご進講で、皇居の植物について天皇と語り合う幸福な場面が印象的だ。

 読書会で、露木さんから、同じく牧野博士を主人公とした朝井まかて著『ボタニカ』を紹介された。自伝では独りよがりの面もあり、より客観的な牧野像が描かれていることだろう。

10 宮田晶子(政経)

『マチスのみかた』猪熊弦一郎(作品社)

 2023年8月20日まで開催されていたマティス展。それでマティスの弟子であった洋画家、猪熊弦一郎のこの本を手に取ってみた。画家の鑑賞の仕方というのが興味深かった。また、マティスはピカソのような天才というより努力の人なのだと感じた。単純化された簡単そうに見える線は何十枚ものデッサンから生み出されたもの。「マティスが好きと言い得るが、わかる事は難しい」という言葉に納得した。

本の紹介はされませんでしたが、ご参加下さった方から次のような感想をいただいています。

仁多玲子さん(商学部)

 先日の読書会は、今回紹介したい本が見当たらなく、見学で参加させていただきました。

 皆さんが紹介する本は、ユニークで聞かないと知らない本ばかりで、とても面白かったです。なかには、有名な本を、自分流に紹介された方もいますが、それはそれで興味深かったです。 幹事の皆さん、いついつもありがとうございます。読書会の盛会を、これからもお祈りします。