2023/11/17第15回秋の読書会報告

第15回秋のオンライン54ら読書会                       2023.11.17

【参加者】

尾崎健夫(理工)、篠原泰司(一文)、首藤典子(一文)、
山口伸一(理工)、仁多玲子(商)、鈴木伸治(商)、
石河久美子(一文)、宮田晶子(政経)、斎藤悟(社学)、
前田由紀(一文)

(以上10名、敬称略)

最近まで20度を超える日々が続いたと思えば、急に10度未満の極寒になり、温度の変化に体が追いつかないこの頃。紅葉もやっと見ごろとなった。第15回となった54ら読書会は、建築学科出身の尾崎さんを新たにお迎えし、読書の秋を満喫した。

多岐にわたる本に関する参加者からの紹介文を掲載する。(発表順、文体は常体に統一)

なお、これまでの 読書会報告集Book List、もご覧いただけます。

〇尾崎健夫(理工)

『大図説 世界の建築』ジョン・ジューリアス・ノリッジ編/堀内清治他監修、小学館 

(昭和52年初版 日本語版編集制作(株)一ツ橋美術センター)
世界における歴史上の名建築を約800の図版、写真とテキストで紹介した事典的読み物。アジアと中南米、古代、中世、ルネサンス、近代から現代へという大胆な章立てで、解説が展開する。今の我々には、ややヨーロッパに比重がかけられている感もあるが、それだけ欧州の建築文化が世界に与えた影響が小さくなかった証左とも言えるかもしれない。

〇篠原泰司(一文)

『「人口ゼロ」の資本論 接続不可能になった資本主義』大西広、講談社+α新書

SDGsと資本主義の問題よりも少子化(人口問題)と資本主義の問題の方が日本人にとっては、より深刻ではないか?危機から目を逸らしたほとんど効果のないような「異次元の少子化対策」では確実に日本は消滅していくだろう。統計資料を駆使した説得力のある本だ。

『キリスト教の本質 「不在の神」はいかにして生まれたか』加藤隆、NHK出版新書

信仰という立場からは距離をとり、客観的にキリスト教の本質を述べている。ユダヤ教とキリスト教の接続や四つの福音書の成立事情など、私にとっては、意外なところで、新しい知識を見つけるような驚きを感じさせる本だった。以前からキリスト教関係の本は多く読んできたつもりだが、この本には独特の説得力を感じた。とにかく、考察の深みを感じさせられる本だと思う。

〇首藤典子(一文)

『トリニティ』窪美澄、新潮文庫

「三組」を意とするタイトル。それぞれ違う環境で育った3人の女性が、出版業界で出会い、「新しい女性」として成功し脚光を浴び、学生運動の混乱時には共に争いの中に飛び込む。学生とともに社会に抗ったというきっかけが三人の結び付けを強める。そしてそれがそれぞれの仕事、生き方に強い影響を及ぼす。その後時代の流れにより、新しい世代に仕事を取って代わられ、老後は幸福とは言えないが、その三人のことをそのうちの一人の娘が記録し、本にすることで未来へ残す。かっこよく働く女性の先駆けとなった三人の話である。

『ゆりかごで眠れ』垣根涼介、中公文庫

日本が移民政策をとっていた時代、南米に渡った日系二世が、10歳の時にゲリラに両親を殺害された後、現地の女性に引き取られる。孤児の賢さに気付いたその女性に上の学校にいくように勧められ、進学が決まった直後、その女性が、実の息子と共にマフィアに殺される。その憤りが彼を日本人マフィアにし、復讐をする。復讐は成功するが、その争いの時に見つけた女の孤児を自分の子供のように育てる。日本で麻薬の取引を企てたときに、警察に捕らえられた子分を救い出そうと周到な準備をするが、直前に仲間内の抗争で殺害したグループの生き残りの返り討ちに遭い倒れる。愛情を持ったことが彼を弱くしたのかというところで終わるハードボイルドタッチのストーリーであった。

〇山口伸一(理工)

『月』石井裕也監督 辺見庸原作(角川文庫)

書けなくなった小説家(宮沢りえ)が重度障害者の施設に勤務し、介護職員のさとくんが、障害者を次々と殺戮する事件を起こすまでを描いた作品。さとくんは、障害者を邪魔者、汚物だと主張する。違和感を覚えるが、100%間違っているとは反論出来ない。

観たくない映画でもあるが、観なくてはいけない佳作。

『愛にイナズマ』石井裕也監督

 これは「月」と同時期に寡作の石井裕也監督が制作した作品。佐藤浩市、松岡菜優、池松壮亮の演技派に混ざっての窪田正孝の演技がひときわ光る。家族の意味を知らない窪田が、崩壊した松岡ファミリーの再構築を目撃して、ハグしあうシーンには感動。ハグの意味と効果を再認識した。

〇仁多玲子(商)

『人生たいていのことはどうにかなる』高尾美穂、扶桑社

 皆さん、ご存じかどうかわかりませんが、著者は、産婦人科医の高尾美穂先生である。最近、出された本だ。高尾美穂先生は、よく、朝NHKで放送している「朝イチ」にゲスト出演されていて、産婦人科医の目から女性にいろいろアドバイスされている。

 彼女の人生観や、いろいろな物の見方、考え方が、この本を読むとよくわかる。私は、すごく共鳴した。皆さんは、どうですか。一度手にとって読まれると面白いと思う。

〇鈴木伸治(商)

『2050年の世界 見えない未来の考え方』ヘイミシュ・マクレイ著、遠藤真美訳 日本経済新聞出版社 2023/7/10

著者は、英インディペンデント紙経済コメンテーター。1990年代に出版した『2020年地球規模経済の時代』での将来予測と現実での学びから、更に一世代(30年)後の世界経済がどうなっているかを、最新の経済モデルや過去2000年以上の各国国内総生産(GDP)の長期推計などを参考に、概ね前向きな展望として素描した本である。

 アメリカ大陸、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、オセアニアの主要国の現状を示した上で、今後の変化をもたらす「人口動態」、「資源と環境」、「貿易と金融」、「テクノロジー」、「政府と統治」の5つの観点を説明し、その結果として前述の主要国がどうなっていくかを予測している。世界各国の現状と30年後の姿についての一つの考えを知ることができる。

〇石河久美子(一文)

『サーカスの子』稲泉連、講談社

著者は早稲田の卒業生。大宅壮一ノンフィクション賞も受賞している。著者は幼少の一時期を母親と共にサーカス団に参加し、全国を旅するという稀有な経験を持つ。その子ども時代の夢のような時間を、40年後、当時のサーカス団員を訪ねて話を聞きながら再体験していく。テント生活で旅から旅を繰り返す団員たちの仲睦まじい日常、100回以上の転校を繰り返すサーカスの子、退団後の通常の暮らしに適応することの困難さ、時代と共にサーカスが衰退し廃業していく様子などが浮き彫りになる。夢か幻かと思われる非日常の世界を繰り広げ、跡形もなく去っていくサーカスは、どこかあやしくもの悲しい。サーカスの追体験とともにサーカスの裏側も知ることができる貴重な書。

〇宮田晶子(政経)

『春にして君を離れ』 アガサ・クリスティー (ハヤカワ文庫)

クリスティーだが推理小説ではない。しかしミステリ的な要素もある作品。あるイギリス人女性が主人公。弁護士の夫を持ち、三人の子どもを育て上げ、家を守り、裕福で円満な幸せな家庭を築いている。本人も自分がやってきたことに自信を持ち、満足している。しかし、実はそうではない。この主人公は表面にばかり囚われて、物事の本質を見られず、人の本当の気持ちが理解できないために周りの人々を不幸にしてきた。娘の病気見舞いに訪れたバグダッドからの帰路、彼女は過去を思い出しながら、そうした自分に少しずつ気づいていくのだが‥イギリスに戻ると「やはり自分は元のままで良いのだ」と戻ってしまう。極端な描写はあるけれど、こういう女性は世間にいっぱいいるような気がする。また結局改心できないままという結末は残酷だけど、クリスティーらしい。

〇前田由紀(一文)

『相思樹の歌』西園徹彦、左右社

 ひめゆり学徒隊となる第一高女の卒業式のために、青年少尉太田博が作詞、第一高女の音楽教師東風平恵位が作曲した「相思樹の歌」の実話を元に創作された小説。二人とも戦死したが、この曲の生まれた奇跡に驚く。戦争の本土最前線として多くの若者が犠牲となった沖縄を舞台に、戦争末期の悲惨さと理不尽さの中、女生徒の美しい歌声が聞こえるような心持ちになる。戦後の沖縄も描かれ、沖縄の歴史を顧みた。「相思樹の歌」も聴いてほしい。

『福田村事件』森達也監督、辻野弥生原作(五月書房新社)

 関東大震災から今年で100年になった。その直後、朝鮮の人たちに関わる流言飛語が飛び交い、自警団と称して朝鮮人を襲撃する事件が各地で起きた。千葉の旧福田村でも、香川からたまたま来ていた薬売り行商団が朝鮮人に間違われ、地元の人たちに、妊婦、幼児を含め9名が惨殺された事件があった。この映画をきっかけにこの事件を知ったが、デマ・流言を信じてしまう人々の狂気の沙汰に戦慄した。記憶にとどめておきたい。

次回の第16回冬のオンライン54ら読書会は、2月16日(金)19:30~21:00に予定しております。司会は、宮田晶子さん(政経)。是非、ご参加ください。