第22回 54らオンライン読書会(夏の読書会)報告
日時:8月22日(金)19時半~21時
参加者:10名
篠原(一文)、沖(理工)、石河(一文)、首藤(一文)
山口(理工)、露木(法)、仁多(商)
斎藤(社学)、前田(一文)、宮田(政経)
以上10名 敬称略
今回は、英国のダガー賞受賞が話題となった『パパガヤの夜』から始まり、世界的に注目を集めているエマニュエル・トッドの『西洋の敗北』、しまなみ海道への旅を控えている方からは『村上海賊の娘』、現在放映中の朝ドラ『あんぱん』にちなんだ本など、今回もバラエティに富んだ本が紹介された。映画では、いま話題の『国宝』、そして前回の『教皇選挙』つながりでフランシスコ前教皇に関連した映画2本が取り上げられた。今年は戦後80年に当たるが、それに関わる本が紹介されたのも興味深かった。
なお、これまでの 読書会報告集、Book List、もご覧いただけます。
(発表順、文体は常体に統一)
〇篠原泰司(一文)
『パパヤガの夜』王谷昌 、河出文庫
前半部のバイオレンスアクション(けんか)の圧倒的な迫力と後半部の逃避行の辿った広大な時空の広がりのコントラストが心に残る小説だ。読者を強く引き込むストーリー展開の途中に、次元が変わってしまうような不思議な部分が現れて、まるで魔術をかけらたような気分になる。「パパヤガ」というのはスラブ神話の魔女の名前らしいが、この小説自体がそもそも魔術を土台において書かれたのもかもしれない。思えば謎に満ちた主人公(新道依子)の出生、つまり彼女の両親はパパヤガなのかもしれない。そう考えれば大いに合点が行く。ぜひ映画なりドラマに仕立ててほしい作品だ。
映画『国宝』 李相日監督
2025年8月26日現在、実写映画(アニメではなく)の興行記録を塗り替えそうな勢いである。ほぼ3時間の長編なので様々な要素が詰まっているが、私は事前に九鬼周造の「いきの構造」を読んで、それを基にした視点を用意して鑑賞した。視点の中心はまさに主人公2人、喜久雄(吉沢亮)と俊介(横浜流星)の渾身の演技である。
九鬼周造曰く、「運命によって「諦め」を得た「媚態」が「意気地」の自由に生きるのが「いき」である」。(P107)九鬼の言う「媚態」と「意気地」、そして「諦め」が映画の中で現れる場面があって、充分に納得した。とても面白く楽しめた映画だった。
『西洋の敗北』エマニュエル・トッド、文藝春秋
西洋(アメリカ)に繁栄をもたらしたプロテスタンティズムはもはや破綻し、アメリカは国家ゼロのニヒリズム状態にある。ウクライナ侵攻も、ロシアよりもアメリカのせいで、その背景には西洋の敗北がある…というのがエマニュエル・トッドの意見。
個人的には、その意見には反対だが、その分析には見るべきものがある。
(個人的には、ロシアの一歩進んだ暴力性“道徳〈宗教〉ゼロ状態”のほうがより問題と感じる)
〇石河久美子(一文)
『チア男子』朝井リョウ、集英社文庫
早稲田大学の男子チアリーディング部ショッカーズに着想を得た青春スポーツ小説。実際にショッカーズのパフォーマンスを観る機会があり、迫力のあるアクロバティックな演技と、さく裂する笑顔と若さに感銘を受け、この本も読んでみることにした。それぞれ家族との関係に悩んでいたり、コンプレックスや葛藤を抱えた部員たちがチアを通して、自分たちの課題に取り組み成長していく姿がいきいきと描かれる。チアリーディングのルールや、技のイラスト付き解説もあり、実際のパフォーマンスを観てから読むとさらにチアリーディングへの興味が湧く。
映画『ローマ法王になる日まで』ダニエル・ルケッテイー監督(イタリア)
ロックスター教皇とまで言われ絶大な人気を誇ったフランシスコ教皇の伝記映画。アルゼンチンの軍事独裁政権下の神父や活動家へのすさまじい迫害が主に描かれる。軍に対して草の根的活動を行う神父たちを擁護する立場にあったフランシスコであるが、結果的に多くの仲間が殺害され自分だけが生き残ったことに苦悩する日々が続く。後年の教皇としての穏やかな佇まいの背景に想像を絶するアルゼンチンの軍事政権時代の経験があり、そのことが教皇としての平和への精力的な活動の原動力であったことがよく伝わってくる。
映画『アルゼンチン1985-歴史を変えた裁判』サンテイアゴ・ミトレ監督(アルゼンチン)
ゴールデングローブ賞、外国語映画賞受賞作品。民事政権移行後のアルゼンチンで、軍事政権の首謀者を裁判にかける事実に基づいたリーガルサスペンス。この裁判に挑む検事が若者とチームを組み、アルゼンチン全土の拷問の生存者と行方不明者の家族の証言を地道に集めていく。裁判で首謀者の責任を追及し、終身刑に追い込もうとする検事の論告は見ごたえがある。重い内容の映画であるが、家族とのやりとりなどユーモラスな部分もある佳作。アマゾンプライムで視聴可能。
〇首藤典子(一文)
『村上海賊の娘』(上下)和田竜、新潮社
7~8年程前に読み、いまなお店頭に並ぶ話題作、この度旅行でしまなみ海道を渡ろうと思い、いま一度読んでみようと思った。
急流の瀨に囲まれている海城を構えた能島村上の長の娘、景。男武将以上の働き、剣捌き、海に潜り仕掛けられた網を切り離したり、次から次へと機転を効かしたりして動き回る姿は手下達の憧れであり、また戦意を高める存在であった。ただ、なりふり構わない為、嫁ぎ先が決まらないのがたまにきず。
ある時、急流で動きがとれなくなった一向宗の信徒が乗り合わせた船を海賊働きで乗っ取った景は、信徒が載せていた兵糧を運ぶという名目で大阪本願寺に続く川の砦に兵糧と信徒を送り届ける。そして、辺りを縄張りとする真鍋海賊と遭遇し、「べっぴんさん」などと言われたことがない褒め言葉に気をよくし、真鍋の城に立ち寄る。これを機に大阪本願寺、信長が西に勢力を拡大することを押さえたい為本願寺に兵糧を届ける毛利方と、海の戦支度が整っていない織田信長に加勢する大阪泉州侍との戦に関わる。どの国と国が戦になるかを知り、無益な争いに関わらないようにする判断をいつ下すか、国の存亡は長の手の中にある。今日の味方は明日の敵、一瞬の判断で戦の行方が入れ替わる。最終刊ではそんな戦闘の真っ只中に読者を誘いもはやそのシーンの中で私も息を飲んでいた。戦に明け暮れていた戦闘時代、瀬戸内海で一睡を風靡していた村上一族も徳川の世になると呆気なく滅ぼされてしまったということである。
〇山口伸一(理工)
『ナイルパーチの女子会』柚月麻子、文春文庫
一流商社勤務の美貌の栄利子は、人間関係が苦手でデジタルな距離を好む。憧れのブロガーと親しくなろうと試みるも失敗し、職場の派遣社員からは思いもよらぬ脅迫を受けて追い詰められていく。高校生が選ぶ賞の受賞作とは思えぬほど、題名に似合わぬおどろおどろしい物語であった。
〇露木肇子(法)
『神の棘 Ⅰ Ⅱ』須賀しのぶ 新潮文庫
1936年から1950年までのドイツを舞台に、修道士マティアスと、ナチス親衛隊のアルベルトの人生を軸として、史実を基に狂気の時代を克明に描いた小説。ナチスの宗教弾圧・障害者差別・ユダヤ人迫害、連合軍の捕虜虐待、宗教の腐敗等ありとあらゆる悪が詰まっている。正義は常に逆転し、信頼は裏切られる。残酷なシーンが多く読み続けるのがつらいほどだが、最後にすべての謎が解き明かされ、大きな感動が待っている。
2010年の単行本を全面改訂した2015年の文庫本がおすすめ。
『革命前夜』須賀しのぶ 文春文庫
1989年、ピアノを学ぶ眞山柊史は音楽の都ドレスデンに留学し、ハンガリー、北朝鮮、ベトナム等からの留学生と共にピアニストを目指す。時はベルリンの壁崩壊直前、学生達は息のつまる監視社会の中、シュタージに脅えながら、自由と音楽を求めて活動していく。友情、恋愛、裏切り等に遭いながら、眞山は自分の音を追求する。音楽の高まりと共に自由を求める声も高まっていく。そしてついに壁は崩壊し、歓喜があふれる。読んでいる間音楽が聞こえてくるような美しい小説。冷戦下の芸術という点で映画「善き人のためのソナタ」を彷彿とさせる。
〇仁多玲子(商)
『十二の真珠』やなせたかし、復刊ドットコム
今回の読書会で紹介する本は、今、NHKの朝ドラで話題になっている「あんぱん」というドラマの主人公のモデルになった「やなせたかし」が書いた『十二の真珠』という本。本というよりは絵本。本の印刷でも、「ふしぎな絵本」と書かれている。これは、やなせたかしの初期の作品集。また、元祖「アンパンマン」を収録した本でもあると、宣伝している。
さて、どういう本かと言えば、短い短編が12個集められている。
一番初めの短編、「バラの花とジョー」。これは、美しいバラの花と、雑種犬のジョーの愛の物語。最後は、ジョーがバラをカラスから守るために盲目になり、その後死んでしまうのだが、それに合わせてバラの花も、大気汚染で、枯れてしまう。涙を誘うお話だ。そういう短編が12集入っている。私は、こういう本が好きだ。
これからも、皆さんと一味違う本を紹介していきたいと思う。
〇前田由紀(一文)
『へいわとせんそう』たにかわしゅんたろう・著、Noritake・絵、ブロンズ新社
戦後80年の夏に戦争に関する本を数冊読んでみた。最初に紹介するのは。谷川俊太郎の絵本。シンプルに平和と戦争の対照的な場面が続くが、最後には、敵と味方で変わらない場面が3場面連続して出てくる。この「変わらない」ことで、平和を切望する筆者の深い思いがひしひしと伝わってきた。
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子、新潮社(新潮文庫)
では、日本はなぜ戦争を始めてしまったのか。日清戦争から振り返る。筆者は、中高生を対象に講義形式の序論で戦争の定義をジャン=ジャック・ルソーの言葉を引用して「敵対する国家の、憲法に対する攻撃」と語る。それから日清戦争から太平洋戦争へと時系列に多岐にわたる資料をもとに辿っていく。講義では、その都度筆者が問いを投げ掛けて、それに答える生徒たちの発言も興味深い。日清戦争から線として太平洋戦争につながっていき、いろいろな要因が重なって戦争へと突き進んでいく過程がわかり、どこかで立ち止まれる局面があったのではないかと思わされた。
『昭和16年夏の敗戦 新版』猪瀬直樹、中央公論新社(中公文庫)
5年前に出版社の企画で勤務校の中高生と一緒に読んだ本である。偶然にも今年NHKでドラマ化され、当時のことを思い出した。まず、開戦直前の総力戦研究所の史実であり臨場感あふれる描写に引き込まれた。日本史の教科書や資料集と突き合わせて、読み進めた生徒もいた。悪役とされた東条首相の葛藤にも注目が集まった。数字や空気の怖さ、コロナの現状と重ね合わせ、危機的状況での冷静かつ客観的な思考、判断、行動の大切さを痛感させられた。5年前の夏、生徒たちと一緒に戦争開戦の内実を知ることができ感慨深い本となった。
〇宮田晶子(政経)
『考える練習』保坂和志、大和書房
作家の保坂和志氏が大和書房の担当編集者の質問に答えながら、「考える」ということは何か、について語っていく。
「思考法」の本はたくさん出回っていて、多くはビジネスマン向けのものが多いのだけれど、これはまったく趣が異なる。私たちは考えることによって、物事を理解し、何らかの解答や解決策を見つけようとする。しかし、保坂さんは、わからないものはわからないままでもっておく、理解しようとしない、そういう姿勢が考え続けるという行為であると言う。編集者のやり取りは、政治、経済、小説など、さまざまなテーマに及ぶが、保坂さんのそれぞれの答えがこれを実践している。
コスパやタイパ、あらゆることに効率を求めがちな風潮で、私自身もそれに染まってしまっているが、考えるということの本質を考えさせられた。かなり急いで読んでしまったのだが、考え続けながらもう一度読んでみたい。
福島からいつも参加されている斎藤さんからいただいた、読書会への感想です。
〇斎藤悟(社学)
いつも参加させて頂き有難うございます。
毎日介護の事で精一杯で読書の時間ないなか、レベルが高く内容が深い話を聴かせて頂き、話にも参加させて頂き感謝して居ります。発表の後パネルディスカッションのような流れになるのはさらにいいですが、気になる話も聴き逃す事もあり、その後の纏めも有難いです。
とにかく企画がいいです。読んだ本の内容を説明する→自然にパネルディスカッション→後評→発表内容を纏めて公表。
そして発表なしでも参加させて頂ける。
読書の時間が無い私には勉強になり、参加者と会い話も出来る。
皆様悩みもおありでしょうが、読書をしたり旅行に行ったり、羨ましく眺めています
*次回は、前田由紀さん(一文)の司会で、11月28日(金)秋の54ら読書会を予定しています。












