2025/11/28秋の読書会報告

23回秋のオンライン54ら読書会                        2025.11.28

【参加者】

篠原泰司(一文)、福島碧(社学)、山口伸一(理工)、
石河久美子(一文)、沖宏志(理工)、露木肇子(法)、
鈴木伸治(商)、首藤典子(一文)、仁多玲子(商)、
宮田晶子(政経)、前田由紀(一文)   
  (以上11名、発表順、敬称略)

 山本周五郎受賞作で、早大出身の堺雅人主演で最近映画化された作品から始まり、ロスチャイルド家の伝記、司馬遼太郎作品、哲学的陸上アニメ、早大出身三浦しをん作の辞書編纂物語、新技術マインドアップローディング、高市発言で物議となっている安保法制、ユダヤ人の歴史、ノーベル文学賞受賞の韓国作家作品、夏目漱石三作品、大人向けチェコ絵本、「ばけばけ」で話題の小泉八雲と岡倉天心の日本文化論と今回も多彩な本が揃い、興味が尽きない読書の秋にふさわしい一日となった。 

なお、これまでの 読書会報告集Book List、もご覧いただけます。 

        
(発表順、文体は常体に統一)

〇篠原泰司(一文)

『平場の月』 朝倉かすみ 光文社文庫

作者は北海道出身の小説家。たまたま埼玉県朝霞市に住む機会があり、この小説を書いた。2019年の山本周五郎賞受賞。17万部以上の売り上げがありベストセラーになった。内容は悲恋のストーリーなのだが、まず、描かれる相続、葬式、法事など年齢を重ねると経験せざるをえない各種の行事の実感あふれるリアルな描写には感心させられた。50過ぎになって地元に帰ってきた二人の主人公の人生経路は普通の人間が経験しえないことなのだが、特に須藤葉子の場合はこれだけで別の小説が書けそうな話なのだが、そういう特別な事柄をも乗り越えて読む者にある種の悔恨の気持ちを共有させてしまう。過ぎ去ってしまった自分の過去への哀惜の念と取り返せない悔恨の情を読者に抱かせてしまう。これがこの小説の眼目なのだと思った。小説の舞台は私が住む朝霞台の周辺であり実名ではあまり出てこないが、居酒屋、花屋、スーパー、コンビニになどが、まさにそのままで出てくる。

映画「平場の月」

封切りの11月14日に鑑賞した。小説を読んだ後で、正直、須藤葉子を映像で表現するのは難しいと思っていた。しかし、映画監督、脚本家のおかげで陳腐で説明不足になりそうな部分は何とか乗り越えられているし、堺雅人や井川遥の演技力と、その演技にかける情熱に感動する部分があった。小説に出てこない人物や設定がある。特に薬師丸ひろ子の唄と塩見三省に注目だ。というわけで、映画の方も小説とは違った味わいの深い良いものになっていると思った。なお、原作に出てくる朝霞台中央総合病院はTМGという近代的な病院になっているので、ロケ地も朝霞台南口ではなく、北朝霞駅周辺になっている。ロケ地は90%が朝霞。残りが志木市と狭山市だろう。近いうちにもう一度鑑賞しに行く予定だ。

〇福島碧(社学)

『赤い楯ロスチャイルドの謎(I~4)』広瀬隆、集英社文庫今年の6月、家族で南仏のロスチャイルド邸を訪れることになり、その前にロスチャイルド家を知ろうと、読み始めた。この本を読むと、世界は、このようにできているのか・・
目からウロコというか、考え方が180°変わり、例えば海外のニュースの見方が変わる。
著者の広瀬隆氏は、早稲田大学卒の先輩である。

『花神(上中下)』司馬遼太郎、新潮文庫

寡黙にして判断に狂いはない・・司馬遼太郎氏は、こういった主人公・軍神・大村益次郎が好きなんだろうな、と思う。同じく氏の著書『鬼謀の人』、『王城の護衛者』は、この『花神』を書く前の下書きの短編かと思われる。『鬼謀の人』には、シーボルトの娘イネは、まだ出てこない。 8月54ら会で松山へ行った折り、少し足を伸ばして益次郎のいた宇和島城まで行った。宇和島の天守閣からは、益次郎が軍艦を設計して建造し、浮かべたという港がよく見えて、感激した。

〇山口伸一(理工)

映画『ひゃくえむ。』魚豊原作

今年、「国宝」よりも強く推すのがアニメ『ひゃくえむ。』。「ち。」の作者、魚豊氏が21歳で描いた漫画が原作。100m走に人生を賭ける男たちを描きながら、問うのはただ一つ、「なぜ走るのか」。家族や恋愛、記録といった周辺要素を潔く削ぎ落とし、走る行為を掘り下げてゆく。主人公を取り巻くライバルたちの哲学的な台詞が要所を締め、とりわけ「現実を真正面で捉えないと現実逃避は出来ない」は、自己欺瞞を断つ至言として胸に残った。

〇石河久美子(一文)

『舟を編む』三浦しをん、光文社文庫

10年ほど前に本屋大賞を取ったベストセラー小説。最近この原作を土台にした令和版「舟を編む」がNHKドラマになり、それが大変面白かったので、改めて原作を読むことにした。コミュニケーション能力に乏しいオタクの青年が、辞書を作ることに魅せられ10数年かけて辞書を完成させていく過程が、自身の成長とともに描かれる。軽いタッチの文体ではあるが、想像を絶するような労力と根気、言葉への感性が必要とされる辞書作りの背景、そのような作業を経て編纂される辞書の凄さが伝わってくる。普段何気なく使っている言葉について、改めて考えさせられる書。

ドラマ版「舟を編む」NHK

ドラマでは、ファッション誌の担当だった言葉に無頓着な若い女性が主人公。最初はいやいやだが、辞書を作る過程で言葉の大切さに気付き、辞書作りに夢中になっていく。デジタル化が進む中、紙の辞書を作る意義は何か。言葉は定義の仕方によっては、偏見を助長するリスクもある、時代によって言葉の定義は変わっていく、言葉は使い方によって人を傷つけることもあるが、癒す力もあるといったことが、具体的なエピソードを通して示される。言葉にまつわる示唆に富んだ内容のドラマ。NHKオンデマンドで視聴可能。

〇沖宏志(理工)

『意識はどこからやってくるのか』信原幸弘、渡辺正峰、ハヤカワ新書マインドアップローディングという新技術でバイオ的身体を仮想空間にアップロードして永遠に生きるということを現実化したいということに本気で取り組んでいる渡辺正峰さんという神経学者が実におもしろい。意識の問題を考えるとき、今のところ哲学は圧倒的に科学より先行しているとか。

〇露木肇子(法)

『検証安保法制10年目の真実 「仙台高裁判決」の読み方』長谷部恭男、棚橋桂介、豊秀一、朝日新書

 2014年7月、集団的自衛権を認める閣議決定が出て、これを違憲として全国で25件の訴訟が起こされた。2023年12月5日、仙台高裁が初めて憲法判断をした。結果は合憲判決だったが、小林久起裁判長は、早大の長谷部恭男教授の30分以上の証人尋問を経てこの結論に至った。

 裁判長は翌年4月20日致死性不整脈で急逝した。この裁判長は司法研修所同期の友人だった。彼の長谷部教授への問いかけからは、彼の真意が伝わってきて、これが単なる合憲判決ではないことが明らかとなってくる。

 この判決には、司法が示す「存立危機事態」とは何かが明記されているが、当事者双方から上告されることなく確定し、憲法判例100選に選ばれるに至っている。

『ユダヤ人の歴史古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで』鶴見太郎、
中公新書 

本著はユダヤ人3000年の歴史を新書1冊に詰め込んだ、深く重たい本である。
紀元前にはダビデやソロモンによる栄華を極めた王国もあったようだが、キリスト教が趨勢となる中、ユダヤ人は五大陸を流浪し、壮絶な迫害を受けながらも建国に至り、さらに拡大を謀る。なぜそこまで嫌われるのか、なぜここまで虐殺できるのか、なぜ性差別の慣習の中でギンズバーグのような革新的な女性裁判官が生まれたのか、数々の謎を解き明かしてくれる「目から鱗」本だ。

〇鈴木伸治(商)

『菜食主義者 新しい韓国の文学01』ハン・ガン(韓江)、きむふな訳、クオン(2011)
2024年のノーベル文学賞を受賞した韓国の作家ハン・ガンが、韓国で最も権威のある文学賞「文学賞」とアジア初のイギリスのマン・ブッカー国際賞を受賞した作品である。これまでいわゆる純文学は、ノルウェー・ブック・クラブが2002年に選定した
「The top 100 books of all time」https://www.theguardian.com/world/2002/may/08/books.booksnews

から概ね時代順に読んできており、近年、女性作家の『高慢と偏見』(ジェーン・オースティン)、『嵐が丘』(エミリ・ブロンテ)、『ミドルマーチ』(ジョージ・エリオット)は恋愛や女性の生き方など興味深く読むことができたのだが、『ダロウェイ夫人』(ヴァージニア・ウルフ)は女性の日常と戦争後遺症のある帰還兵の自殺で内容的に理解し難く戸惑うことに。
これは、女性作家の作品をほとんど読んでこなかったためかと思い、まずは近年話題になった年齢的にも近い女性作家の作品を探していたところ、たまたま本屋で見かけたことから購入した。
一読してその内容は「極端・過激・奇抜」であり、かつて観た韓国映画「オールド・ボ―イ」に近い印象で、最初に読む本としてはお勧めできない。続いて読んだ『すべての、白いものたちの』をまずは読むことをお勧めしたい。その上で本書を読むと戸惑いが軽減されて読めるのではないかと。

『すべての、白いものたちの』ハン・ガン、斎藤真理子訳、河出文庫(2023年)

平野啓一郎が解説しているように「小説というより連作散文詩といった趣」が強く、私は詩人でもあるハン・ガンの詩集として読み進めた。内容は、表題のとおり白いものたちを題材に、自己と母、早世した姉、ソウルと執筆中に滞在したワルシャワでの出来事について、女性独自の視点で鋭敏な感受性で感じたままを繊細に掬い取って表現したものになっているように感じた。

〇首藤典子(一文)

『こころ』夏目漱石、新潮文庫

何気無く手に取った三冊が、いずれも男女の三角関係を綴った作品であったことに驚く。『こころ』では、主人公の書生が先生と慕う人物の遺書と思われる長い手紙を受け取り、読み終わるやいなや、危篤状態の父親を親族に託し、先生の元に急ぎ汽車に乗るといったドラマ仕立て。先生と縁談があった女性に親友から好意があると告げられ、その告白後に女性の母親と縁談を決めてしまった先生。それを知った親友は頸動脈を切り自殺する。女性はその事情を知らないまま、結婚生活は続いていくも、先生はその悔恨から逃れることが出来ず、苦しい胸の内を吐露した文を書き綴り書生に送り、自殺すると告げる。汽車に乗った書生は、果たして先生の最後に間に合うのだろうか。


『それから』夏目漱石、新潮文庫

親の支援を受け、働かずに進められる縁談をのらりくらりとやり過ごしながら暮らしている主人公。結婚した友人が失職し、生活費を借りに来たその細君を不憫に思い頻繁に会うようになる。会うにつれて親友の彼女に対する愛情が欠けていると思うようになり、代わって自分がその細君の面倒をみると親友に告げる。面子を潰された友人は、主人公の父親にその顛末を手紙で伝えたことから、怒った父親が支援を打ち切り、兄弟からも絶縁され、主人公は全てを失うという話。


『門』夏目漱石、新潮文庫

親友の妻と駆け落ちをしたという過ちが、元夫の前途を傷つけたことに自分達も痛く応えており、人目を避けてひっそり暮らしている。文中では、「一生を暗く彩った関係は二人の影を薄くして、幽霊のような思いを抱かしめた。」とある。ある日、借家の大家の弟が蒙古で牧畜をしたり、冒険者のような暮らしをしていて、その弟に同行している者が妻の元夫と知る。大家の家に滞在するので一緒に食事でもと誘いを受け、会えるはずもない相手に鉢合わせすることに怯え始める。どうにかしてこの状況から逃れでたいと、しばらく座禅を組んで頭を休めようと鎌倉の禅寺へ向かう。その不在の間に蒙古へ帰って行った大家の弟と元夫。「彼の頭を掠めんとした雨雲は、辛うじて、頭に触れずに過ぎたらしかった。けれども、これに似た不安はこれから先何度でも、色々な程度において、繰り返さなければ済まないような虫の知らせがどこかにあった。」と今後を暗示する文が文豪漱石所以の表現だろうか。

〇仁多玲子(商)

毎回、オンラインで実施される読書会。オンラインで実施するから、今のメンバーが集まるのではないでしょうか。いろいろな地域の方が参加されています。それが、今の読書会の特徴になっていると思います。私も、夜、対面で実施されるのなら、多分参加しないと思います。オンラインだからこそ、家でパソコンを開いて、ゆっくり、皆さんの本の紹介を聞いています。それが、一つの楽しみになっています。これからも、ずっとこの会が存続することを願います。幹事の方、よろしくお願いします。

〇宮田晶子(政経)

『三つの金の鍵魔法のプラハ』ピーター・シス、柴田元幸訳、BL出版

作者のピーター・シスはチェコ生まれで、ロス五輪に関連する仕事で渡米。しかしロス五輪への東欧諸国のボイコットで帰国命令が出され、それに反発してアメリカに留まった。アメリカで結婚して生まれた子どものために、故郷のプラハを伝えるためにこの本を制作した。気球に運ばれて生まれ育った街に戻った「ぼく」は、生まれ育った家に入るために三つの金の鍵を探さなければならない。黒猫に導かれて街を彷徨い、さまざまな場所で鍵と巻紙を受け取る。巻紙には、プラハにまつわる3つの伝説が書かれており「ぼく」は鍵を手に入れて無事に家に入ることができた。ピーター・シスの絵は幻想的で、魔法の街と言われるプラハの雰囲気を暗めのタッチで表現する。3つの伝説も興味深い。プラハを訪ねてみたくなる。

『ピーター・シスの闇と夢』ピーター・シス、柴田元幸、赤塚若樹ほか、国書刊行会

数年前にピーター・シスの「ピーター・シスの闇と夢」という展覧会が日本で開催され、それをきっかけに制作された本のようだ。ピーター・シスのイラストや絵本原画が解説とともに紹介されている。シスの幻想的な絵がたくさん見られるのも楽しいが、翻訳者の柴田さんとの対談も面白かった。シスの背景にある、抑圧された東欧での生活があったからこその自由を守ることのメッセージなど興味深かった。

〇前田由紀(一文)

NHK100分で名著」ブックス 小泉八雲 日本の面影』池田雅之、NHK出版

 八雲の日本での初の著作が明治の日本を海外に紹介している『日本の面影』である。この解説書では、庶民の質素で清廉な生活、神社仏閣、伝承話、盆踊り、庭、自然に宿る神などの記述に聴覚の言語化の特徴があり、根底に日本文化に共鳴する深い思考と敬愛の念があると分析している。八雲は「日本人の精神には素晴らしい平静さが保たれている」と言及しているが、海外から見る視点から日本文化を重層的に顧みる機会としたいものだ。

『対訳ニッポン双書茶の本 The Book of Tea』岡倉天心、IBCパブリッシング

八雲と同時代の天心は伝統日本美術の復興運動を起こしたが、当時西欧化に邁進していた日本では孤立し、ボストン美術館で職を得、NYで日露戦争直後に英語でこの本を出版している。東洋に無理解な西洋に憤り、富と権力を求める争いを嘆き、「おぞましい戦争の栄光が文明国の証なら、われわれは喜んで野蛮人のままでいよう。」武士道が「死の術」として話題となるが、茶道は、「生の術」であるとし、「儚さを夢にみて、美しく、されど、取りとめのないことに時間をゆだねてみよう」とお茶に誘う。茶室(数寄屋)は余計な装飾を排した簡素な小屋であり、静謐な自然との穏やかな調和を重んじた心の平穏に日本の美を見出し紹介している。原文が英語のせいか率直に述べられているところに好感をもった。

                                      

*次回は、宮田晶子さん(政経)の司会で、2月27日(金)冬の54ら読書会を予定しています。