第25回春のオンライン54ら読書会 2026.5.29
【参加者】
篠原泰司(一文)、櫻井直子(一文)、沖宏志(理工)、
石河久美子(一文)、鈴木伸治(商)、首藤典子(一文)、
山口伸一(理工)、露木肇子(法)、福島碧(社学)、
仁多玲子(商)、斎藤悟(社学)、宮田晶子(政経)、
前田由紀(一文)
(以上13名、発表順、敬称略)
第25回は、イランと米・イスラエル戦争の背景は何か、ユダヤ人と米の福音派から探る本から始まり、身近な関心事であるお墓や遺品整理、定年後、看取り、元気な90代、詐欺グループのほか、スポーツ系、NHK朝ドラ関連、三浦按針や空海の歴史もの、アウトロー、生命科学、AI、宇宙、川上未映子や金原ひとみ等22作品と多岐にわたり、今回もあっという間の充実した一夜となった。
(発表順、文体は常体に統一)
〇篠原泰司(一文)
『ユダヤ人の歴史』鶴見太郎、中公新書
ガザの惨状を見聞きするときに感じる、いたたまれなさ、無力感、やるせなさ、などはこの本を読むことによって多少なりとも緩和できそうな気がする。ディアスポラによって世界に広がったユダヤ教を信じるユダヤ人なる人たちは単一の人種・民族としてはありえないという事実を知りえたことはこの本から得た大きな収穫だった。
ナチスの犯したホロコースト(絶滅収容所による)は、「人種という概念にとり憑かれたユダヤ人陰謀論のなれの果てだった」(P223)という。してみれば、ユダヤ人という存在を人種や民族という概念でとらえるのが幻想であるなら、シオニズムが掲げるユダヤ人の国家というのも幻想の上に成り立っている陰謀論とほとんど変わらないことではないか?シオニズムやポグロム(民衆間の集団暴力)、スファラディームやアシュケナジームなどの言葉を今までどうして知らなかったのか?自分のパレスチナ問題に対する理解がいかに浅いものだったか気付かされる一冊だった。
『福音派―終末論に引き裂かれるアメリカ社会』加藤喜之、中公新書
イスラエル=ユダヤ人の国をとりあげたら、それを背後で強力に支援しているアメリカも取り上げないわけにはいかない。キリスト教福音派と歴代大統領の関係は常に密接なものがあり、トランプ大統領だけの問題ではない。しかしトランプ大統領は政治と宗教の垣根を曖昧にし、選挙結果の否認や神の権威を使った敵対勢力への圧力などによって民主義の崩壊につながりかねないという懸念をばらまいている。ちなみにアメリカがなぜイスラエルを後押しするかというとディスペンセーション主義と福音派の終末論による。
『生命とは何か 溶けていく「個体」の境界線』中屋敷均、講談社現代新書
生命を一つの個体という単位で捉えるのでなく、外部の多様な存在たちとの絡み合いの中で捉えた方が生命現象を語るうえでは事実に近いのではないかという観点で書かれた本である。溶けていく境界線の向こうには「個体」はあるだろうか?近代的な自我の観念を生命現象にもあてはめているだけのではないか?葉緑素(シアノバクテリア)やミトコンドリアの話など、興味深い話がてんこ盛りで語られている。面白かった。
〇櫻井直子(一文)
『夫の墓には入りません』柿谷美雨、中公文庫
長崎に住む60代の専業主婦の主人公の夫が出張中に突然死亡した。近くに住む夫の実家は嫁として義両親の面倒をみることを強要し、さらに、夫が隠していた過去が露見され、ついに夫の家族との姻族関係終了届を提出することを決心した。一人では困難なことだったが、疎遠だった実の父親が、自分のために力を貸してくれた。義理の家族と実の家族との対比で物語は進み、最後は実の父親に頼れることが分かって、ほっとする結末になった。
『姑の遺品整理は、迷惑です』柿谷美雨、双葉文庫
70代後半の義母が急死し、遺品整理をする事になった主人公。義母はエレベーターのない団地の4階に住んでいたため、大量の物を整理しゴミを捨てるのに苦労した。自分ですべて片付けて逝った実家の母と比較し、義母を恨む日々だったが、隣の親子や自治会の人を通して、恩人といわれるほど情のあった義母の一面を知る。そのお陰で助けてくれる人も多かった。遺品整理の面倒をかけられたが、義母の人柄を知ることができたことで「遺品整理は迷惑ではなかった」という心温まる話だった。
『金環日食』阿部暁子、創元推理文庫
主人公の女子学生が親しくする老婦人がひったくり被害に遭う場面に遭遇し、犯人を追ったが取り逃した。一緒に追った男子高校生と犯人をつきとめるために捜索を行う。他方、経済的困難な女子高校生は老人に個人情報を聞き出す高額なアルバイトをして家族を助けている。ひったくり犯人が詐欺グループに関係することをつきとめたが、男子高校生や女子高校生、犯人の正体が反転する。物語は二転三転し、老婦人までも詐欺事件が関係するなど、最後には唖然とする結末となった。詐欺事件に少年少女が関わってしまう罠が描かれ、物語の展開が面白い小説だった。
〇沖宏志(理工)
『定年後、その後』楠木新、プレジデント社
老後には60代の「定年後」と70歳からの「定年後、その後」がある。
「定年後、その後」をどう生きるか?と問いかけるもの。イキイキ過ごす5つの分野があると主張する。すなわち
①起業(一人ビジネス)、②組織で働く、③趣味、
④地域活動・ボランティア⑤学び
また、著者は小さい頃から、次の3つの疑問を持っていて、この歳になってもわからない…との事。
①「人は死んだらどこへ行くのか」
②「宇宙の果てはどこまで続き、その先には何があるのか」
③「昨日寝た自分と、今朝起きた自分は、本当に同じ自分なのだろうか」
〇石河久美子(一文)
『風が強く吹いている』三浦しをん、新潮文庫
前回『俺たちの箱根駅伝』を紹介したが、箱根駅伝を題材にした小説というとまず思い浮かぶのがこの作品。無名の大学のにわか集団のチームが奮起し箱根駅伝の予選を突破し、本選でもシート権を獲得する。あり得ない設定ではあるが、話の展開もテンポよく楽しめる。
チームの中心となるのは、高校時代に将来を嘱望されながら、それぞれの事情で陸上を断念した2人の選手、箱根駅伝に挑むことを通じて信頼関係を築いていく過程や走ることへ魅入られる様子が描かれる。実際の駅伝の部分は、コース各区の特徴もよく捉え疾走感がある。こちらも箱根駅伝の前に再読したい一冊。
『体育会系―日本のスポーツ教育が作った特異な世界』小野雄大、中公新書
著者は体育会系出身の研究者。体育会系という呼び名が1960年代の大学闘争の際、大学が学生を取り締まる実行部隊として体育会の運動部の学生を動員したことに端を発したと知り驚いた。
少子化が進む中、大学側は経営戦略としてスポーツ系の学部開設やスポーツ推薦入学者の増加で学生を獲得し、スポーツで名を挙げようとする。一方、学生側は入学後のスポーツ継続を義務付けられる、学力や学習意欲が不十分、スポーツの世界しか知らないことによる就職やキャリア形成への不安などの問題を抱えたりする。大学スポーツというと爽やかさや清々しさなど光の部分に目が行きがちだが、影の部分も知っておく必要があると感じた。
〇鈴木伸治(商)
『黄色い家』川上未映子、中央公論新社
前回の『夏物語』に深く考えさせられてとても良かったことや、この本の帯のキャッチコピーにも惹かれて同じ著者の話題作を読むことにしたもの。帯の「孤独な少女の闘いを、圧倒的スピード感と緻密な筆であぶりだす」のとおり、母子家庭で母親らしいことをしてもらったこともなく、中学3年生の夏休みの間には黙って家を出て母親の友人の女性が同居することになるような孤独な少女が、初めて自分の家族のように感じたその女性と高校2年生の時に再会したことから、家出して一緒に生活するようになり、その女性との生活を守るための闘いについて、孤独な少女が感じ考え行なったことを緻密に表現しており興味深く読み進めることができた。ただし、今回も母子家庭の主人公で関係する登場人物もほとんどが女性で、男性は問題が多い人物であり、生活を守るためのお金儲けとはいえ20歳前の少女が犯罪の道に積極的に飛び込んでいくことに大きな違和感を感じずにはいられなかった。
『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』松尾豊、角川EPUB選書
2022年後半にChatGPTが登場してから生成A Iが急速に普及して、現在ではGeminiやClaudeなど複数のモデルを業務や用途に合わせて実際に使い分けるようになってきている。この生成A Iが実際にはどのようなものなのか理解したいと思い、参考になる本を探していたところ2015年発刊と古いが、日本のA I研究を牽引する第一人者と言われる東京大学の松尾豊教授が最近の生成A Iの出現を予言するような内容の本書を見つけたものです。
内容は、人工知能の開発のこれまでの歴史と、「50年ぶりに訪れたブレークスルーをもたらすかもしれない新技術『ディープラーニング』の意義」であり、この本でディープラ-ニングを理解するのは困難だが、人工知能の発展と内容を理解するのには大変参考になるものであり、興味のある方には是非お勧めしたい。
〇首藤典子(一文)
『チータ・ユーマ: ラフカディオ・ハーン全小説』ラフカディオ・ハーン、河出文庫
NHKの朝ドラ「ばけばけ」のモデルとなった小泉八雲ことラフカディオ・ハーンが、米でジャーナリストとして活躍し、その文才を認めたハーパー社がハーンを日本へ派遣する前に書き上げた「チータ」「ユーマ」の二作品。
「チータ」
ニューオリンズ南メキシコ湾のデルニエール島が舞台。島の大惨事で、一人の子供を除いて避暑客も住民も海に没して全滅した。その子供は別の島の漁師に救助され、その家で育ち、後に裕福な親戚が引き取りにきても、育ての親の元を去らなかったという話。
「ユーマ」
仏領西インド諸島のマルティニーク島が舞台。
黒人奴隷の乳母ユーマは、白人の主家の為に尽くし、黒人が暴動を起こした際に、黒人の側に付かず、自分が面倒を見ていた白人の娘と共に火を放たれた家で死を選ぶといった忠誠心の持ち主であった。この作品がかなりの力作だと思われるところは、後半の奴隷解放機運が高まった為社会変革が起こるくだりである。自由の身となることを感じ取った黒人達は思いもかけぬ組織の力と秘密裡に蜂起する術を承知しており、もはやこの流れを止めることはできない白人達、わかっていながらどうすることも出来ず、逃げ込んだ家で焼け死んでいく残虐なシーンの描写であり、およそ朝ドラで放映されていた小泉八雲から想像できるものではなかった。また、紀行文のような風景描写が、ヘミングウェイの『河を渡って木立の中へ』(ヴェネチアが舞台)」で描かれている風景描写と似ていると感じるのは、19世紀末~20世紀初頭の頃は、まだ手付かずの自然が多く残り、ゆるゆるとした悠久の時の流れが感じられる空間があったからだろうか。
〇山口伸一(理工)
『真剣師小池重明』団鬼六、幻冬舎アウトロー文庫
1970年代、私の青春時代、日本人の生活は豊かになった。しかし、私を含め多くの人は、その繁栄が永遠に続くとは思っていなかった。どこかで夢は潰え、成功は手のひらからこぼれ落ちる—そんな時代の不安が、松本清張の作品や『あしたのジョー』、当時の映画の結末にも色濃く表れている。その時代精神を一身に体現した人物が小池重明である。将棋界でも屈指の実力を持ちながら、表舞台へ近づくたびに人妻と駆け落ちとか最悪の手段で遠ざかってしまう。破滅的で、社会人として不合格。それでも多くの人に愛された。「将棋界のあしたのジョー」と呼ぶのは大げさかもしれないが、その生き様にはどこか重なるものがある。
〇露木肇子(法)
『明治のナイチンゲール大関和(ちか)物語』田中ひかる、中公文庫
本書は、朝ドラ「風薫る」の原案である。
朝ドラは、実在の人物をモデルにする場合、実話をかなり削除・改変している。原作を読んで改変部分を見つけるとNHKの意図がみえてきて結構面白い。
今回実話とドラマの主な違いは次の点である。
①主人公2人(大関ちかと鈴木雅)とも士族出身、クリスチャン、シングルマザーで英語堪能。ドラマではちかをモデルとするりんをクリスチャンにせず、雅をモデルとする直美は女郎の子という設定にした。
②ちかの離婚原因は妾の存在。ドラマではそれを出さずDVとした。当時女性を苦しめた女子売買と一夫多妻制。ちかは一夫一婦制を唱え、廃娼運動に取り組むキリスト教に魅かれ入信し、信仰に基づき看護婦の礎を築いていった。朝ドラはこの問題にどう取り組むのか興味津々である。
〇福島碧(社学)
『海風慕情 長崎の豪商・永見徳太郎と銀子』新名規明、弦書房
長崎在住のM氏(1979年卒)に紹介された本。永見銀子女史の生涯。このような一生もあるんだ、という驚きとともに、その夫の永見徳太郎氏については、やはりどうしても、最後は長崎に帰りたかった、それができなくて・・。長崎の街の様子が書かれていて、懐かしかったです。
『三浦按針の謎に迫る~家康を支えたイギリス人臣下の実像~』森良和、フレデリック・クレインス、小川秀樹、玉川大学出版部
こちらも、長崎の1979年卒M氏に紹介された本。共著者の小川秀樹氏は、1979年卒の同期です。三浦按針が、ヨーロッパの大航海時代の一環として、日本へ2年の苦難の末到着した、とのこと。また、知りたかったのは、三浦按針が、なぜそんなに徳川家康に気に入られたのか。三浦按針は、通事や交渉役として活躍するも、決して自分が利益を得ようとしなかった(イギリス商館やオランダ商館に雇われた身分であった)、「お金のにおいのしない人」だったらしい。それが、家康に気に入られたところではないか?と思ったりしました。
『空海の風景 上下』司馬遼太郎、中公文庫
最後の方で、司馬遼太郎氏が、書いていました。「人生の悦楽のひとつは、自分と同じ知的水準のひとびとと常時交わりをもちうることであるとすれば、帰国後の空海におけるこの面での淋しさは、あるいは当然なことであったかもしれない」なるほど、空海は、天皇と話していても、寂しかったのかもしれません。
8年前からはじめた「司馬遼太郎氏 読み尽くし」も、この『空海の風景』で最終となります。(『街道を行く』を除く)少し寂しくなりました。
〇仁多玲子(商)
『92歳、好き放題幸せづくし』粟辻早重、KADOKAWA
彼女は、ご主人とデザイン室を共同設立したあと、人形作家としても見いだされ、個展を開きつつ広告も手掛けている。また、最近は、世界のやかんを集めているとのこと。ご主人はお亡くなりになりましたが、一人で大きな家に住んで、老後を楽しんでいる様子が本を読むとよくわかります。例えば、家をパーソナルジムにして、家の中で靴を履いて運動したり、食事も、食べたいものを作って自己管理されている。私からみると、羨ましい限りです。こういう老後を送りたいものです。写真が多く、楽しく読めました。
〇斎藤悟(社学)
いつも有難う御座居ます。温かく差別なく受け入れて頂き感謝しています。この雰囲気が好きです。皆さん忙しいのに本を読む時間があるのは、優先順位が高く習慣になっているからと思っています。早く読書の時間を持てる様になりたいですが、新聞さえ中々読む時間がない状況です。此の読書会は落ち着きあり格調高く現実から離れられ学びも多い貴重な時間です。東北にも来て下さい。御案内させて頂きます。
〇宮田晶子(政経)
『アンソーシャルディスタンス』金原ひとみ、新潮社
谷崎潤一郎賞を受賞した表題作を含む5つの短編が収められているが、どの主人公も何らかの理由で精神的に追い詰められ、変調をきたしている。その描写が鮮明で自分に届きすぎて、主人公たちの行く末を思うと辛くて、この本を読み続けられるかどうか、途中で不安になったくらい。描かれる内容はとてもヘビィで過激で、自分にはこんなことはなかったし、これからも起こり得ないと思うのだが、どこか共感もしてしまう。金原ひとみの筆力に脱帽。
『棺桶まで歩こう』萬田緑平、幻冬舎新書
今話題の新書。表題から健康術を説く本なのかと思ったら「よく死ぬためには何をすべきか」という内容だと思った。著者は外科医から在宅緩和ケア医に変わり、多くの人の看取りに関わった。病院で点滴などのチューブに繋がれて亡くなるのではなく、家族に囲まれて家で人生を終えるという幸せを手にするにはどうするか、医療との向き合い方を説いた本。筆者のようなお医者様が身近にいればともかく、なかなか難しそう。もう私には看取るべき人はほとんど残っていないが、その前に読んでおきたかったと思う。
〇前田由紀(一文)
『銀河鉄道の父』門井慶喜、講談社文庫
もうすぐ来る6月の父の日に因んで、宮沢賢治の父親のお話。岩手で裕福で町の名士でもある賢治の父親は、賢治が幼い頃赤痢になったとき、禁止されていたにもかかわらず病院に寝泊まりして看病するほど子煩悩で、賢治の進学にも理解を示し、家業の質屋を継がなくても金銭的援助をし、人生が思うようにいかず葛藤する息子を最後まで陰ながら支えていく。ずっとこの本を読んでいたいような気持ちになり、心を動かされた。利発な妹も賢治には大きな存在であるが、この家族して賢治ありと思わせる。賢治作品がもっと愛おしく感じられるようになった。
『火星の人』アンディ・ウィアー、ハヤカワ文庫SF
宇宙旅行も夢ではない時代になってきた。最近「プロジェクト・ヘイル・メアリー」という著者原作の映画を観たのをきっかけに、彼の第一作を読んでみた。宇宙飛行士になって火星を探検しているような気分が味わえる。主人公マークは、事故により火星にひとり取り残されてしまう。絶望的な状況だが、彼の全技能と知識を結集して度重なる困難を一歩一歩ずつ「途方もない機略縦横ぶりを発揮して」越えていく。食料も自前でジャガイモ畑を作ってしまう具合だ。楽天的で、ユーモアを忘れないところも魅力だ。
*次回は、宮田晶子さん(政経)の司会で、8月28日(金)夏の54ら読書会を予定しています。