2026/02/27読書会報告

24回冬のオンライン54ら読書会 2026.2.27

【参加者】

篠原泰司(一文)、村山豊(法)、石河久美子(一文)、福島碧(社学)、
沖宏志(理工)、露木肇子(法)、首藤典子(一文)、鈴木伸治(商)、
仁多玲子(商)、前田由紀(一文)、宮田晶子(政経)

(以上11名、発表順、敬称略)

 第24回は常連の皆さんに加え、久しぶりの参加者も加わった。今回紹介された本は、駅伝がテーマの小説、ワセジョが主人公の小説など、54ら会ならではと感じる本が多かった。また途中でオーディブルや墓仕舞いの話でひとしきり。少子高齢化や核家族化が進む中、お墓の継承問題は私たちの世代にはかなり切迫した問題。本の話ではないけれど、こうした話題が交わされるのも、この読書会の良いところだと思う。(発表順、文体は常体に統一)

〇篠原泰司(一文)

『カフェーの帰り道』島津輝、東京創元社

第174回直木賞受賞作。

東京・上野のカフェーで女給として働いた、とある女性たちの百年ぐらい前のお話。

小さな物語が集まった短編集かと思ったがそうではなかった。初めのうちは個々に語られていた登場人物たちが互いにからみあって人生を紡いでゆく語り口に引き込まれる。終わりに近づくほど面白くなる不思議な小説だった。昭和初期から戦後にかけて生きた女性の人生を生々しく感じて読めたのも新鮮だった。

『狼の義』林新・堀川惠子、角川ソフィア文庫

「暁の宇品」などを書いたノンフィクション作家の堀川惠子氏がNHKプロデューサーであった林新氏の遺志を引き継ぎ完成させたノンフィクション系小説。(ちなみに林新氏は堀川惠子氏の夫であり2017年に亡くなっている)

五・一五事件で暗殺された犬養毅の伝記なのだが、いままでほとんど語られてこなかった古島一雄という人物を強力な補助輪として登場させることによって、今までにない深みのある面白い小説になっている。ちなみに、なぜノンフィクションではなく小説という形で書いたのか?「複雑でとっつきにくいこの時代をよりわかりやすく描くため」(あとがきより)ということだ。

〇村山豊(法)

『国宝上下』吉田修一、朝日文庫映画が空前のロングランとなった「国宝」上下を紹介した。

侠客の息子から歌舞伎役者に弟子入りし異例の抜擢を受け遂に人間国宝になった喜久雄。梨園の御曹司として何不自由なく育った俊介。二人の愛憎と切磋琢磨ストーリーもさることながら、日本の誇る舞台芸術「歌舞伎」界の本質を学べる小説。

映画を先行して観るべきか? 本を先に読むべきか?結論など出るわけはないが、問題提起をさせていただいた。

ちなみに国宝については、私の場合諸事情により以下となった次第。

映画⇨本(紙)⇨映画⇨本(Kindle)

〇石河久美子(一文)

『俺たちの箱根駅伝 上下』 池井戸潤、文藝春秋

箱根駅伝に大学として出場することが叶わなかった選手たちの混合部隊である関東学生連合チームが、様々な葛藤を経て奮起、記録も順位も正式には残らないが、実質上位に食い込む感動スポーツエンターテイメント小説。

各区間の特徴、そこを走る学生たちの背景や駅伝への思い、テレビ中継の仕組みが同時進行で明らかになり躍動感溢れる構成で読む側を楽しませる。箱根駅伝の前に再読したい。

『翠雨の人』 伊予原新、新潮社

女性科学者の草分け、猿橋勝子の人生と研究を題材としたフィクション。女性が高等教育を受けるのが困難な時代に理系の学問に魅せられ、戦時下の困難を潜り抜け、放射能に汚染された海水の放射線濃度測定の実験と研究に没頭する。その業績が評価され単身渡米、アメリカの研究者と測定の精度を競い、劣悪な研究環境にも関わらず圧勝する場面は読みごたえがある。ただ、猿橋を尊敬して止まない一方、独身の女性研究者に対する作者の固定観念が垣間見られ違和感を覚えた。

〇福島碧(社学)

『故郷忘じがたく候』 司馬遼太郎、文春文庫

4月の54ら游学の折、少し足をのばし、近くのお城を訪ねてみようかと、『肥前名護屋城の人々 佐賀新聞社編集局編』を読んだ。そこには、秀吉の朝鮮出兵の折、朝鮮から多くの陶磁工が連れてこられ、その子孫が九州で日本の陶磁器文化を発展させたことが記されていた。『故郷忘じがたく候』は、その陶工の子孫で日本の大学教授の話。戦前の日本による韓国統治の36年間だけでなく、そのずっと前の秀吉による朝鮮出兵から370年、その370年前のことが、もしかしたらまだ韓国の方の怨念の背景にあるのでは?と思ったりした。

『爆心』 青来(せいらい)有一、文春文庫

長崎の過酷な歴史~遥か昔には、秀吉の時代のキリシタン殉教、また、終戦間際には、原爆投下という歴史をみる時、その後、長崎の方は、どんなことを思い、考えているのかを知りたいと思った。「死者との対話」という、当方には日頃ない命題に向かわざるをえない本だ。

 (著者の青来氏は、長崎大卒の長崎在住公務員、芥川賞作家)

〇沖宏志(理工)

『墓じまい』吉川美津子 WAVE出版

長年の懸念事項だった『墓じまい』を実施する際に、読んだ本。

遺骨処理の問題がある場合は、単なる石屋ではダメで、Total Solutionを提供してくれるところを探す必要がある。請け負ってくれるところで値段もかなり違うし、自治体の対応もおそらく地方によってかなり違う。墓じまいは先送りは容易だが、インフレの時代においては、キャッシュの逃げ場としてもいいのではないか?

〇露木肇子(法)

『嘆きの美女』柚木麻子、朝日文庫

 いまや国外でも話題の『Butter』の著者が、それより6年前に出した、マンガチックな小説である。「ジャイコ」のあだ名で性格も容貌も問題ありのヒロインがひょんなことから自分がネット攻撃をしてきた美女達の住む豪邸に同居することになる。そこで美女なりの悩みを知ったり、感化を受けたりしながら成長していくお話。容貌差別をあえてテーマにして、コンプレックスに悩む女性達に自信をもたせてくれるストーリーで、面白さは保証する。

『早稲女、女、男』柚木麻子、祥伝社文庫

 『嘆きの美女』の翌年に出た、これまたコミカルな小説である。このタイトルは「早稲女」は女でも男でもなく、「第三の性」という意味とのことである。

物語はたわいもないが、登場人物がすごい。主人公はワセジョ、親友は立教、恋敵はポン女、妹は学習院、コクられた男の元カノは慶應、旅仲間は青学で、それぞれ大学のイメージ通りのキャラクターだ。早稲田の男性も数人出てくるが、いずれもイメージ通り。ヒロインは自意識過剰で不器用で面倒臭いのだが実はとても魅力的で、早稲田讃歌となっている。因みに著者は立教卒である。

〇首藤典子(一文)

『ロッキード』 真山 仁、文春文庫

元は新聞記者だったので、渾身の力を振り絞って取材に取り組んだのだろうなと思える程の緻密さが表れている。多方面から取材し、都度仮説をたて、田中角栄逮捕には決定づけるだけの証拠がないのではないかと推測している。いづれにしても、関係した人達も多くが故人となっており、一度下った判決を覆すことは容易ではない。それより、徹底した取材を見て欲しいという作品だったのかなと思う。

『タングル』 真山 仁小学館文庫

 シンガポールの夜景が表紙になっており、折しも昨年末に行ったばかりだったので手に取ってみたが、大きく様変わりしたシンガポールを舞台に繰り広げられるコンピューターの開発競争を巡って国と国との策謀、投資してくれる先をどう選ぶか、また選ぶことにより、想定されるリスクに考えを巡らせるところなど、めまぐるしく展開する話にすっかり取り込まれてしまい、あたかも現実に起こっているのではないかと(実際そうなのかもしれないが)いう気にさせられ、ドラマを見ているようで実におもしろかった。

〇鈴木伸治(商)

『夏物語』川上 未映子 文春文庫

ヴァージニア・ウルフ著「ダロウェイ夫人」で内容に戸惑ったことから、最近の女性作家の作品を読んでみようと、ノーベル文学賞作家ハン・ガン著「菜食主義者」「すべての、白いものたちの」に続き、「米T I M E誌ベスト10」「米ニューヨーク・タイムズ必読100冊」などの帯に惹かれて読んだもの。

本日読み終わったところでの率直な感想は、海外でも高く評価されているように深く考えさせてくれる小説で、個人的には男性にお勧めしたい。女性の世界であること、特に第二部の後半から、子供を産むことの意味や責任に関わるあたりから強く引き込まれ、具体的には出てこないが、男性の責任そして生まれたことの意味に想いを馳せることになるのではないかと。

第一部は、東京に住む主人公の家に姉とその12歳の娘が宿泊することから、その生い立ちや現在の生活、そして姉やその娘との関わりや想い・感情が「意識の流れ」に沿って率直に綴られる。仕事を持たず家出をした父のため、母と姉と共に祖母の家に夜逃げし、間も無く母と祖母が相次いで亡くなったことからの極貧の生活やそれでも姉の助けで前向きに生きてきたことや、姉の上京が豊胸手術のためであったことなどである。

そしてもう一人の主人公として12歳の姉の娘の手記に、初潮を迎えることや子供を持つことへの戸惑いや疑念が綴られる。姉が離婚して苦労して娘を育てていることを身に沁みて実感しているからだ。

この小説は女性の世界が描かれていて男性は出てこないばかりか、貧しさや苦労などの原因となっている。

第二部は、その8年後、主人公が38歳の時、「このままひとりでいい」のだが「会わんでええんか・・・わたしの子どもに」の思いに直面する。セックスが苦痛で恋人と別れており、そんなことは起こらないのだと納得しているのに。

そして、そのような自分でも可能な精子提供(A I D)によって生まれた人達との出会いと交流からある選択をすることになる。

〇仁多玲子(商)

毎回、皆さんの本の紹介が楽しみです。

日頃、あまり本に接触する機会がないので、皆さんの紹介する本が新鮮です。

これからも、よろしくお願いします。

〇前田由紀(一文)

『その糸を文字と成し』高野知宙、河出書房新社

明治初期、養蚕で働く若き奉公人が、自由民権運動に影響を受けて、文字を読むようになり自立していくお話。夜皆が寝静まった後に人目を避けて、学問会に参加し勉学に励む光景が目に浮かぶ。受験雑誌で「蛍雪時代」いうのがあったが、まさにその蛍雪の姿である。民権に揺れ動く主人公の心情がよく理解でき、古文調の文体も好ましい。当時の自由民権運動の様子、あきる野市で起草された民間の私擬憲法「五日市憲法」の草案、困窮農民の武装蜂起の「秩父事件」等が巧みに描かれている。

映画「One Battle After Another」ポール・トーマス・アンダーソン監督、ワーナー・ブラ

ザーズ(アメリカ)

収容されている不法移民を救出し革命を目指すテロリストが主人公。活動が失敗に終わり落ちぶれて隠遁生活をするが娘が狙われて次から次に逃走劇が続く。アクション映画だが、アメリカ社会の裏側が垣間見えることがこの映画の魅力である。不法移民や人種差別、格差社会が社会構造上終わりない真実として提示される。レオナルド・ディカプリオ演じる主人公はどうしようもないダメ親父だが、そんな暗澹たる現実の中でたくましく生きていく人々がいる。出し紹介している。原文が英語のせいか率直に述べられているところに好感をもった。

                                      

〇宮田晶子(政経)

『ナチュラルボーンチキン』金原ひとみ、河出書房新社

 『蛇にピアス』の芥川賞受賞で注目を集めた金原ひとみ。テレビ東京の『カンブリア宮殿』の新MCに就任と聞き、意外な人選で驚いたが、その就任コメントがとても面白く秀逸だったので、小説も読んでみることにした(何となく金原ひとみには手を伸ばしていなくて)。

 主人公は出版社の労務課に勤める、45歳の女性。仕事と動画とご飯というルーティンを繰り返す毎日を送っているが、とあることで会社の女性編集者の家を訪ねたことから新しい人生が回りだす。主人公のこれまでの人生を明かしながら、エンディングのちょっと想像の斜め上をいく結末に持って行っている。金原さんはこの物語を「中年版『君たちはどう生きるか』」だと言っているが、私には、「人生って色々なことがある。そして、ふとしたことで人生は変わる」という応援歌に感じた。こうくるかという驚きと共に、とても清々しい小説。(これがきっかけで他の金原ひとみも読み始めた)。                          

*次回は、前田由紀さん(一文)の司会で、5月29日(金)春の54ら読書会を予定しています。