2024/11/22秋の読書会報告

第19回秋のオンライン54ら読書会                       2024.11.22

【参加者】

篠原泰司(一文)、福島碧(社学)、沖宏志(理工)、露木肇子(法)、
加藤透(理工)、石河久美子(一文)、鈴木伸治(商)、
首藤典子(一文)、山口伸一(理工)、斎藤悟(社学)、
宮田晶子(政経)、前田由紀(一文)
    (以上12名、敬称略、発表順)

二十四節気によると、この季節は「小雪」。「冷ゆるが故に雨も雪と也てくだるが故也」の意とか。わずかながら雪が降り始める季節となった。今回も多様なラインナップとなった。読書会を始めて丸5年。あっという間であり、毎回の新鮮さは、変わらない。(文体は常体に統一)

なお、これまでの 読書会報告集Book List、もご覧いただけます。

〇篠原泰司(一文)

『板上に咲くMUNAKATA:Beyond Van Gogh』原田マハ、幻冬舎

原田マハによる今年(2024年)3月に出版された小説。伝記ではなく小説なのだが、ほとんどすべてが事実どおりに書かれているようだ。私の好きな画家(版画家)なので、柳宗悦や大原孫三郎などの名前が出てきたり棟方志功の母の話がでてきたりする部分などで、画家の全体像が把握できたのはとてもよかったと感じている。大変感動的に読めた本だ。

『アマテラスの正体』関裕二、新潮新書

突飛な空想や道具立てを持ち込んだ歴史本ではなく、日本書紀や万葉集などを丹念に読み込んだ上での「アマテラス」についての仮説が書かれている。「アマテラス」のことだけではなく「卑弥呼」の存在までに話が及ぶ。この辺りの日本歴史に興味がある方にはぜひ一読をしてほしい一冊である。

『遊郭と日本人』田中優子、講談社現代新書

江戸時代の遊郭という存在を歴史的、文化史的に掘り下げた本。著者の見識にとても感動させられた。江戸時代の遊郭は日本文化をその一角に凝縮したワンダーランドだったのだ。来年の大河ドラマの主人公は江戸の遊郭である吉原の出身であり、吉原で活躍した人物である。2025年 大河ドラマ「べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~」の始まる前に読んでおいてはいかが?

〇福島碧(社学)

『板上に咲くMUNAKATA:Beyond Van Gogh』原田マハ、幻冬舎

今年の4月に、弘前城の花見に家族と行き、何か青森にちなんだ本を読もうと思い、この本を手にとりました。この本は、ゴッホの「ひまわり」に憧れて芸術の世界に入った棟方志功と、棟方を世に出した奥様の話。青森からの帰りの新幹線で、泣けました。青森からは、今も世界中でファンの多い太宰治も出ていて、それは何故?・・青森には、本当に何もなくて、それこそ、何もないからこそ、彼らのように生まれるものがあるのでは?と思いました。

『功名が辻』(一)〜(四)司馬遼太郎、文藝春秋

わずか6万石の掛川城主だった山内一豊を、土佐24万石の大名にした、妻の話。女の生き方として、大いに参考になります(自分では、出来ないけど)。この9月、掛川城へ行き、その豊かでおだやかな土地に癒されました。山内伊右衛門(山内一豊は、小さい頃から伊右衛門と呼ばれていた)のその誠実な人柄や、また、敵を作らない生き方に、惹かれました。ところで、お茶の「伊右衛門」というペットボトルの名前は、この山内一豊にあやかって付けたのかも?と思ったりしました。

『峠』(上)(中)(下)司馬遼太郎、新潮社

人間の生き方についての本、と思いました。越後(長岡藩)の河井継之助の話。河井継之助は、30才過ぎまで、世の中の真理を求め、何もしないでいた人。人間には、何もしないで考える時間が必要、と思いました。今の世の中では、不可能だけれど。また、越後の友人は、とても開明的で、何故か?と思っていましたが、この本を読んで、少し納得しました。

〇沖宏志(理工)

『町内会』玉野和志、ちくま新書

富士通社友会の理事は断った。中国語コミュニティの理事も断った。しかし、広島のような地方都市では、なかなか町内会の理事を断るというわけにはいかず、町内会にかかわることになり、読んでみた本。町内会のメイン機能は共同防衛機能との事。町内会はいわば公共財のようなもので、あると助かるし、いざというときありがたいが日頃からそれを積極的にささえようとは誰も思わない。それは誰かがやってくれれば助かるが、できれば参加したくないもの。

〇露木肇子(法)

『家族終了』酒井順子、集英社文庫

著者は2004年『負け犬の遠吠え』で注目を浴びた、我々より10年ほど年下のエッセイストである。小中高の後輩ということで、時折読んではいたが、ミッション系女子校という温室で育ちながら、なぜ世間の矛盾を敏感にとらえ、辛口で、しかもユーモアたっぷりに切り込んでいく力を身につけたのかを長年不思議に思っていた。その謎が本著によって明らかになった。著者は両親と兄を亡くし、家族が終了したことに伴い、家族の秘密を暴露し、その上であらゆる家族または家族的な関係について思いを巡らしている。
 学問や理論にとらわれない自由でおおらかな発想が魅力だ。選択的夫婦別姓についても筆者は次のように述べている。「苗字は一緒でも家庭内では別居という夫婦と、苗字はバラバラだけれど仲の良いという事実婚カップルを比べると、前者の方がより国益にかなう、という判断を国はしているのでしょう。」共感できることが多くて、楽しく読むことができた。

〇加藤透(理工)

『大地』パール・バック、河出書房 1967 (世界文学全集第34巻)

中国を舞台に、アヘン戦争の頃からスタートする家族3代にわたる大河小説。肥沃でない土地の貧農が主人公で、奴隷女を娶って、物語が始まる。死にもの狂いに働き、アヘンに耽溺する族長から土地を買い取り、しかし子供の世代から親の土地を売却する崩壊過程が始まり、結局無に帰していく。

〇石河久美子(一文)

『堤未香のショック・ドクトリン-政府のやりたい放題から身を守る方法』堤未香、幻冬舎

ショック・ドクトリンとは、テロや災害などショッキングな事件が起きて国民が思考停止している間に政府や巨大資本が過激な政策を推し進める手法。本書では、マイナンバーカ-ド、コロナ、脱炭素が例として取り上げられている。マイナンバーカードに関しては、一つに個人情報を集約する危険性を警鐘するとともに、諸外国のマイナンバー状況についても整理して情報提供している。それによると、名だたる諸外国で日本のような制度を取り入れている国はない。個人情報の取り扱いについて、各国との温度差を感じた。まもなく保険証が廃止になるので、今後を見据えるうえでも参考になる書。

〇鈴木伸治(商)

『人類とイノベーション −世界は「自由」と「失敗」で進化する』マッド・リドレー 著 大田直子訳、NewsPicksパブリッシング(2021年3月3日)

著者は、事実と論理に基づいてポジティブな未来を構想する「合理的楽観主義」の提唱者として世界的に著名で、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグらの世界観に影響を与えたビジョナリーとして知られる。本書は、米英でベストセラーを記録している。
イノベーションとは、元々は「技術革新」という意味で使われていたが、現在ではモノ、仕組み、サービス、組織、ビジネスモデルなどあらゆる領域において、従来の常識を覆し、今までにない革新的な考え方やアイデアによって、社会に大きな刷新、変革や新しい価値を生み出すことを意味している。そのため、先進的な企業や先進国で頻繁に使われ目標とされているが、それがどうして起こるのかについての体系的な概念は確立されていない。本書は、その謎に具体的な事例をもとに、自分の(または他人の)発明を有益なイノベーションに変えたイノベーターたちの成功例や失敗例など、それが起きた経緯から探究している。事例は、蒸気機関や検索エンジン、ワクチンや電子タバコ、輸送用コンテナやシリコンチップ、キャスター付きスーツケースや遺伝子編集、数字やトイレなどである。

『草の花』福永武彦著、新潮社(福永武彦全集 第二巻 小説2)

研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍(同性)との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。まだ熟れきらぬ孤独な魂の愛と死を、透明な時間の中に昇華させた、青春の鎮魂歌。福永の作品の中で最も読者、それも年若い読者に愛されたもの。

〇首藤典子(一文)

『菜食主義者』ハン・ガン著、きむ ふな訳、クオン

ノーベル文学賞受賞作品。最初の章では、語り手が普通のサラリーマンで、特に目立ったところもなく、平凡な女性と結婚し平穏に暮らしていたが、ある時妻がおかしな行動をとるようになり、肉を全く食べなくなる。そして夫用に買いだめしていた肉をすべて捨ててしまい、食卓に肉料理が出なくなる。困った夫が妻の両親、姉に相談したことで、妻の父親が無理やり肉を食べさせようとした直後手首を切ってしまい、精神を病んでいるということで入院することになる。章が変わると語り手が妻の姉の夫、妻の姉と代わっていき、それぞれの視点で語られるようになる。病状が進行していくにつれ、悩む周囲の人間を巻き込みながら、また女性により引き起こされる事象で周りの者たちの生活事態が思わぬ方向に変化していく様が克明に描かれ、家族、親族関係が崩壊していく。よくあるベジタリアンであると気軽に考えるなかれ、と警告を発しているようにも思われる作品。

『滅びの前のシャングリ・ラ』凪良ゆう、中央公論新社

前に取り上げた「菜食主義者」と前後して読んだ際、作品の構成が似ているので取り上げた。最初の章で登場した人達が、章が変わる度に語り手となって別の側面から登場する。作品の内容自体は、若者主体で軽快に展開していく作品。

『流浪の月』凪良ゆう、東京創元社

 女児誘拐事件として報道された当時小学4年生の少女と、捕らえられて医療少年院に送られた、当時19歳の大学生の話。15年後に再会し、当時は説明することが出来なかった少女時代の報道が誤っている、「事実と真実は違う」、誘拐ではなく少女自身がついて行きたかったのだと悟る。大人になった彼女がそのように述べても、第三者は、特殊な状況下で長い時間を共に過ごすうちに、犯人に対して被害者が好意を持つストックホルム症候群であると指摘する。この話では、他人が何を言おうがずっと一緒にいたい、―――そのような気持ちになるまでは他の男性と交際したり、また犯人とされた男性も他の女性と交際したり、それぞれの経験をした上でやはりこの人が一番とお互いに思っているが―――周りが二人の関係性に気付き始めると「今度は何処に行こうか」とその場から離れ流れていくということを繰り返していくというエンディング。「誘拐事件」として報道されたが為に本人達の気持ちとは裏腹のストーリーが展開しそれが事実として認められてしまい、女性が望まないことは何もしない人なのに社会的制裁まで受けてしまう男性。しかし、二人で自分達なりの幸せを求めていくことをあきらめてはいないことが救いであろうか。

〇山口伸一(理工)

『鬼の筆』春日太一、文藝春秋

脚本家、橋本忍は黒澤明の「羅生門」でデビューし、「生きる」、「七人の侍」、「八甲田山」、「八つ墓村」などのヒット作を手がける。ヒット映画の請負人で、「砂の器」では原作にはない日本縦断の旅を挿入、また、邦画では初の単館上映を実現し、大成功を収める。さらにプロダクションを作り、才能ある監督やスターを集め大作を制作し、映画の斜陽時代を支えた。しかし、晩年の「幻の湖」で失敗する。映画ファンでなくとも興味深い一冊。

〇斎藤悟(社学)

 今回は思いも掛けなかった町内会や故郷談義が楽しかったです。町内会の存在や機能は地域に依って異なると思いますし、何処を故郷と思っているのか、故郷とは何処を云うのかに付いて皆様にお聞かせ頂ければと思って居ります。長く考えさせられているとても興味のある問題です。ジェンダーの話も同様です。宜しくお願い致します。

〇宮田晶子(政経)

『大阪』 岸政彦・柴崎友香、河出文庫

故郷を出て大阪に住み着いた社会学者の岸さんと、大阪を出て現在は東京に住む作家の柴崎さんのリレーエッセイ。生活史研究の岸さんに興味を惹かれて手に取った本だったが、柴崎さんパートのほうが面白かった。大阪にいた頃は、家族との葛藤とか、友人関係の悩みとかいっぱいあったようなのに、それでも生まれ育った大阪という街に対する愛情が感じられた。私にはそのような感情を抱ける街がなく、そのことがとても羨ましく思われた。

〇前田由紀(一文)

『異邦人』カミュ、新潮文庫

勤務校の高校生が企画した『異邦人』読書会に参加した。なぜ書き出しが「母さん」ではなく「ママン」なのか、なぜ母親の死に冷淡な態度をとったのか、なぜ撃ったのか、タイトルは、なぜ異邦人なのか、なぜこんな判決になったのか、司祭をなぜ追い出したのかいろいろな疑問について話し合い、フランスの歴史も振り返った。予想をはるかに超えた充実した読書会となった。

『日本辺境論』内田樹、新潮新書

 日本人論にかねてから興味があり、2009年に出版された本書も当時お気に入りの新書となった。今回、生徒に紹介するために再読し、新たな魅力を発見した。常にどこかに「世界の中心」を必要とする辺境の民であり、きょろきょろしてしまう日本人の情けない習性を思い知らされるが、そのことに気づき、そこを強みとすることもできるのではないか。既存の日本人論を総括して読者に明示する「お掃除本」であるという表現も見事だ。

映画「PERFECT DAYS」ヴィム・ヴェンダース監督(ドイツ)

 役所広司が演じる一人暮らしの渋谷の公衆トイレ清掃員。ルーティンの日常が丁寧に描かれる。職人気質で、人知れず隅々まで磨き上げる。車中で聴く好きなCD。行きつけの飲み屋、銭湯、古本屋100円均一文庫の読書。最低限の質素な生活だからこその豊かさがある。自由と寂寥が入り混じるが、「こもれび」という日本語を英語で紹介しているのは日本にしかない表現なのだろう。出てくるトイレがオシャレだったのも印象的だ。

*次回は、宮田晶子さん(政経)の司会で、2025年2月28日(金)第20回冬の54ら読書会を予定しています。