2023/02/24 第12回 冬の読書会報告

第12回冬のオンライン54ら読書会
2023.02.24

【参加者】
篠原泰司(一文)、村山豊(一文)、仁多玲子(商)、沖宏志(理工)、
石河久美子(一文)、露木肇子(法)、山口伸一(理工)、
鈴木伸治(商)、前田由紀(一文)、伊藤聡(法)、斎藤悟(商)、
宮田晶子(政経)(以上12 名、敬称略)

54 ら会のオンライン読書会、3ヶ月ごとの開催で12 回目を迎えました。
常連の皆様に加え、初参加の方がお二人。
今回は、歌集が初めて取り上げられたり、常連の皆様もいつもと少し傾向
の違った本を紹介されたりで、意外な発見のある面白い会となりました。
以下は当日、挙げていただいた本を発表者のお名前とともに紹介いたします。
推しの本について、それぞれ長いコメントをいただいており、
それをそのまま(文体は常体に統一しました)掲載しております
(順不同)。

なお、これまでの 読書会報告集Book List、もご覧いただけます。

1 篠原泰司さん(一文)
『彼は早稲田で死んだーー大学構内リンチ殺人事件の永遠』
樋田 毅(文藝春秋)
1972 年11 月8 日、早稲田大学文学部キャンパスで川口大三郎君(その
当時20 歳)が革マル派によって殺害された。そして、その直後から
革マル派に反対する一般学生の闘いが始まった。この本は川口君事件の
真相と、事件後の一般学生たちの闘いの軌跡をたどった本である。
文学部キャンパスの101 教室や181 教室(大教室)、そして教わったこと
のある教授が登場するなど、一文出身の私にとっては本の中の記述は
あまりにもリアルであった。在学中から今に至るまで、川口君事件につ
いては活動家の起こした事件だろうと思っていたが、事件に一般学生も
多く関わっていたことはただ驚きだった。
考えてみれば、その当時親しく話しをさせてもらった教授や先輩学生の
口からは川口君事件のことを聞いた記憶がまったくない。もちろん事件
への関わりあいの濃淡や距離感は様々であったろう。むしろ、関与など
は皆無の人がほとんどだったかもしれない。それでも、その当時キャン
パスにいた学生は、何らかのものを心に抱かざるをえなかったはずだ。
そして、それはなかなか言い表せることのできる性質のものではなかっ
たのだろう。この本を読み終えて、私の学生時代の腑に落ちなかった部
分が鮮明になったような気持ちになっている。
色々な意味で心に沁みる本だった。文学部出身者にはぜひ読んでいただ
きたい本だ。

2 村山豊さん(法)
① 『習近平独裁は欧米白人を本気で打ち倒す』 副島隆彦(ビジネス社)
② 『習近平独裁3 . 0 中国地獄が世界を襲う』 宮崎正弘(徳間書店)
中国の近未来に関して真っ向から対立する早大OB 二名の著作を紹介。
副島氏は法学部昭和52 年卒業。宮崎氏は教育学部昭和40 年入学、中退。
① 副島先輩 経済を犠牲にしても、民主化を後退させても、習近平は西
側先進国と闘う戦時体制を固めた。自国に大きな打撃が来ることも覚悟
した。米国一強体制は終焉する。中国は勝利し世界の覇権を握るだろう。
21世紀は少なくともアジアは中国の支配下に入る。日本はいつまで対
米追従を続けるのか。覚醒して中国につけ。
② 宮崎先輩 習近平皇帝の独裁体制確立により、外国勢の脱出は加速、
経済は衰退し、「中国の夢」などは悪夢で終わる。各国の嫌中意識は
高まり、第二次大戦前夜の様にロシアと中国はかつての日独の様に
世界から孤立する。一帯一路など幻想であり廃墟が延々と続く。
日本はいつまで中国幻想にとらわれるのか?覚醒して親中派を排除し、
英米印豪とともに中国を包囲せよ。
法学部で学んだ「学説の対立から本質へアプローチする」
「通説・判例と少数説・異端説のそれぞれの主張を認識整理すること
により、問題点を立体的に理解することができる」。
これは法学に限らず社会事象を把握する上でとても有益。

3 仁多玲子さん(商)
『足裏を鍛えれば死ぬまで歩ける』松尾タカシ(池田書店)
著者の松尾タカシ氏で、ヒップアップ・アーティストで、もともと、
おしりを鍛える方が専門だったのが、おしりの持つ「歩く力」を最
大限に地面に伝えるためには、足裏の機能も必要と考え、この本を
書いたとのこと。いま、私は足が悪く、この本をみて、家の中でで
きるトレーニングを実践しようと考えている。手軽に家の中ででき
る運動がいくつか紹介されている。
*皆さんも、もし本屋さんでこの本を見かけることがあれば、ぜひ
軽く目をとおしてください。面白い本です。

4 沖 宏志(理工)
『定年オヤジ改造計画』垣谷美雨(祥伝社)
定年オヤジのバイブルのような本。
日々の生活の中で「お茶を出すのはお前の方だ!」と自らのふるまい
を戒めねば。
「配偶者は上司と思え」と肝にめいじるとともに、
「一緒に旅行につきあってくれる。」などは、とんでもない天恵と感謝せねば。
また自治体図書館の読書会・読書アプリ・ビブリオバトル等の読書
活動について紹介した。
e.x. 読書メーター https://bookmeter.com/users/1376733

5 石河久美子さん(一文)
『滑走路』萩原慎一郎(角川文庫)
歌集としては、異例のベストセラー。「きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい」は
代表的な歌の1つ。著者は早稲田の卒業生でもある。数々の受賞を重ね、期待されながらも夭折。非正
3
規雇用の日々、心の葛藤、恋や憧れ、未来への不安や希望などが295首に綴られている。学生時代の
記憶や感情を呼び起こさせられるものも多く、心に響く歌が沢山あった。
6 露木肇子さん(法)
『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』山内マリコ(マガジンハウス)
ユーミンは、1954年1月八王子で生まれ、中学から立教女学院に通学し、多摩美大入学後の73
年11月にファーストアルバム「ひこうき雲」を出した。この本は、この約20年間を、取材と資料に
基づいて綴った小説である。
私はユーミンから3年遅れて、同じ中高に通った。またユーミンの実家の荒井呉服店は、現在の私の
生活圏にある。都心から離れたこの土地で育ち、聖歌を歌う学校で学んだユーミンが、なぜ多彩な歌を
次々と生み出すことになったのか、この小説を読むとわかる。
特にユーミンが、学校では優等生を演じながら、夜な夜な家の外付けのらせん階段を使って抜け出し、
グループサウンズを追っかけていた話は面白い!
読後は、「春よ来い」を口ずさむと浅川の雄大な自然が目に浮かび、「卒業写真」を聞くと、パイプオ
ルガンのある教会での卒業式を思い出すようになった。
7 山口伸一さん(理工)
『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー著、 鈴木 恵訳(早川書房)
父親が違う13 歳の少女ダッチェス・デイ・ラドリーと6 歳の弟ロビンの姉弟。
30 年前の不幸な事件により飲んだくれの母親や学校でのイジメや蔑視に耐え、自らを無法者と自覚し、
独力で苦境を解決しようとする物語。祖父や警察署長ウォーク など温かな手を差し伸べられて……。第
一級の作品。
ゴールドダガー賞受賞、週刊文春ミステリーベスト2022 年海外部門第1 位など、受賞多数。
8 鈴木伸治さん(商)
『黒石(ヘイシ) 新宿鮫Ⅻ』大沢在昌(光文社)
この本は、新宿鮫Ⅻ とあるように、新宿鮫シリーズの12 作目で昨年11 月に出版され、書店で見かけ
たことから早速購入して読み終えたもの。新作が出るたびに読んでおり、今回も期待を裏切らないもの
だった。1作目の「新宿鮫」が1991 年だから、約30 年にわたって続いているシリーズ。
著者の大沢在昌は、1994 年の「無間人形(むげんにんぎょう) 新宿鮫Ⅳ」で直木賞を受けている。
主人公は、たった一人で犯罪者に食らいつくことから、「新宿鮫(しんじゅくざめ)」と呼ばれる新宿
署の鮫島警部。元キャリアでありながら警察内部の抗争にまきこまれ、単独捜査を余儀なくされた孤高
の刑事の闘いが描かれている。
その時々の時代を反映した犯罪が描かれており、今回は狛江市の強盗殺人事件のように、犯罪グルー
プが相互に仲間を知らない、またそのようなことから一般人が仲間になっているというものである。
『ネット興亡記 ①開拓者たち』杉本貴司(日経ビジネス人文庫)
『ネット興亡記 ②敗れざる者たち』杉本貴司(日経ビジネス人文庫)
4
私的な金融商品取引法の勉強会で、ライブドアの風説の流布・偽計や粉飾決算を取り上げることから
紹介されて読み始めた本だが、日本におけるインターネットの幕開けから勃興した著名なIT 企業の盛衰
が生々しく描かれており、大変興味深く読んでいるところ。
特に東証の上場審査においてソフトバンクやNTT ドコモなどの上場に関わったことから、ソフトバンク
がなぜコンピュータ見本市の会社ジフ・デービスを保有していたのか、NTT ドコモがどうやってi モード
という画期的なサービスを生み出すことができたのか、といった当時の疑問を解くことができた。
『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』マックス・ヴェーバー著 大塚久雄訳(岩波
文庫)
前回ご紹介した「社会思想史の歴史」を読んで、世評に高くいつかは読んでみたいと思っていたこの
本を読み始めたことからご紹介したい。
率直に言ってまったく面白くない。論文なの致し方ないのですが、本文が難解な上に本文以上に注が
続く。ただ、本の内容ではないが、注に記載されているヨーロッパにおけるキリスト教に関する膨大で
多面的な論文や調査の蓄積に圧倒されるとともに、「社会思想史の歴史」やこれまでヨーロッパの本から
受けていたヨーロッパにおけるキリスト教の圧倒的な影響を再認識した。
9 前田由紀さん(一文)
『逆ソクラテス』伊坂幸太郎(集英社)
主人公は、小学6 年生。だが頗る賢い。大人の否定的な先入観、決めつけを打破するために取った作
戦に唸らされる。同調圧力に効く言葉は、「僕は、そうは思わない。」この一言で、状況はガラッと変わ
る。闊達な議論をする場ができる。また教育期待効果。小学生の頃、「君には、才能がある」と「全然素
質がない」と言われた場合との差は、その後とてつもなく大きいような気がする。小さな芽吹きを大事
に周りの大人たちは、育てたい。
『明日の国』パム・ムニョス・ライアン(静山社)
著者は、メキシコ系アメリカ人。架空の国の村のお話。祖父と父親と暮らし、サッカー選手を夢見る
少年は、幼い頃母親がどこかへいなくなってしまう。またその国には、昔から他から戦争や人権侵害か
ら逃れてきた人たちを密かに安全な場所へ案内する守り人伝説があった。その守り人の役割を突然果た
すことになる少年は、母親の失踪の謎にも辿り着くことになる。現代でも多くの難民の人たちが存在し、
なんとかその窮地を助けようと奔走する人たちもいる。黒人奴隷を助ける地下鉄道運動を思い出す。今、
自分にできることは何か。
『有吉佐和子の本棚』有吉佐和子(河出書房新社)
昭和を代表する作家だが、人種差別の問題が広まった昨今著書『非色』が復刊され、時代を先取りし
て社会問題に鋭く警鐘を鳴らし、今なお色褪せない彼女の作品群が改めて注目されている。戦前小学生
時代に外地南方で過ごし文豪の全集を読破し、高校では夏休み研究に100 冊の本を読んで読後随筆を書
くなど若き日の読書体験が興味深い。彼女の好奇心は、いつも尽きることがなかった。『恍惚の人』も最
近再読したが、親の介護をしている身に響いた。
5
10 宮田晶子(政経)
『起業の天才』大西康之(東洋経済新報社)
リクルート創業者、江副浩正の伝記。
リクルート事件で社会の表舞台からは去り、創業者でありながらリクルートの社史にも登場しないと
いう江副氏の起業家としての凄さをその生い立ちから追った評伝。その先進性、合理性、そしてある種
のとんでもなさに驚かされる。著者は、情報を産業とし、Google やアマゾンに匹敵するような事業を構
想していたこの稀代の起業家を社会が葬り去ってしまったことについて問うている。3 月に映画Winny が
公開されたが共通する問題意識を感じた。
本の紹介はされませんでしたが、ご参加下さった方から次のような感想をいただいています。
伊藤聡さん(法学部)
皆様、ありがとうございました。とてもいい時間でした。
驚いたのは本もさることながら、皆さんの言語化能力(プレゼンテーション能力)のレベルが非常に高
かったことです。興味のない分野でも読もうかなぁ~という気になります。
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次回 第13 回 54 らオンライン読書会
5 月2 6 日(金)1 9:3 0 より/ホスト 前田由紀さん(一文)
※11 月、2 月、5 月、8 月の第4金曜日に開催しています。