2022/8/26 第10回読書会報告

第1 0 回 夏のオンライン5 4 ら読書会
2 0 2 2 . 0 8 . 2 6
【参加者】
篠原泰司(一文)、首藤典子(一文)、斎藤 悟(商)、鈴木伸治(商)、露木肇子(法)、中村敏昭(理工)、
仁多玲子(商)、日比野悦久(理工)、福島 碧(社学)、前田由紀(一文)、宮田晶子(政経)
(以上11 名、一部参加の方も含む)
54 ら会のオンライン読書会、回を重ねて10 回目を迎えました。
常連の皆様に加え、初参加の方が3人いらっしゃいました。
今回は、本の紹介自体は少なめでしたが、イチエフ(福島第一原子力発電所)の視察に絡めた本の紹介
などもあって、いつもと少し違った趣の会となりました。
以下は当日、挙げていただいた本を発表者のお名前とともに紹介いたします。推しの本について、それ
ぞれ長いコメントをいただいており、それをそのまま(文体は常体に統一しました)掲載しております

なお、これまでの 読書会報告集Book List、もご覧いただけます。


(順不同)。
1 中村敏昭さん(理工)
2022 年1 月21 日に、イチエフ(福島第一原子力発電所)を視察する機会を得た。この視察をめぐって
出会った3 冊の映画と1本の映画を紹介する。
『F u k u s h i m a 5 0』
2021 年3 月6 日に公開された、福島第一原子力発電所事故発生時に発電所に留まって事故対応業務に従
事した約50 名の作業員(通称「フクシマ50」)の闘いを描いた映画。主演は渡辺謙、佐藤浩市、監督は
若松節朗。視察の準備として震災から10 年後の3 月11 日に『Fukushima 50』を鑑賞していた。
『廃炉:「敗北の現場」で働く誇り』 稲泉 連(新潮社)
イチエフの案内役は、経産省資源エネルギー庁で廃炉汚染水対策を担う木野正登さん(木野さんとは会
社のOB であるM 氏との縁で知り合った)。昭和54 年生まれで第二文学部卒業の飯泉連氏は、この本の
第1章には「福島に留まり続けるある官僚の決意」として木野さんとの出会いやエピソードを記してい
る。人事異動希望書には「一生、福島においてください」と書き、国側の広報的立場として、行政が開
催する地元への説明役を引き受け、企業原発事故に関心を持つ人を対象に、原発構内や被災地を巡る活
動をしている。「霞が関から絶対に見えないもの」をたくさん見ている人。
『福島のことなんて、誰もしらねぇじゃねかよ』カンニング竹山(ベストセラーズ)
M 氏は福島に本店を置くS 工業に出向したのだが、新幹線の駅で手にした同書に紹介されている「あね
さの小法師」という飲み屋の常連となり、そこで木野氏と知り合ったのだそう。カンニング竹山氏は東
日本大震災以降、プライベートで何度も福島に入り、たくさんの被災者とも話を交わしてきた。本書は
彼の目を通した率直な福島について綴っている。視察後「あねさの小法師」に行ったら、なんと福島テ
2
レビのロケで当のカンニング竹山氏が来店。幹事長の名刺を渡し、54 ら会の活動紹介もしておいた。
『緊縛』小川内初枝(筑摩書房)
何ともすごいタイトルだが、2002 年の太宰治賞受賞作。M 氏より、この小説のモデルが会社の元社員O
氏(一時PJ で私の下につく)であることを知り、図書館から借りて読む。彼の性癖を垣間見た。
*本の紹介もさることながら、イチエフ視察の様子も詳細にお話しいただき、興味深かったです。
2 篠原泰司さん(一文)
『美は乱調にあり—伊藤野枝と大杉栄』 瀬戸内寂聴(岩波現代文庫)
瀬戸内寂聴43歳から57歳の間に書かれた作品で、アナーキスト大杉栄と「青踏」の編集者伊東野枝
を中心に描かれた群像劇的伝記小説。大杉栄が四角関係の末に神近市子に刺される(日陰茶屋事件)ま
でが「美は乱調にあり」。そして、憲兵大尉の甘粕正彦によって大杉栄、伊藤野枝とその甥橘宗一が虐
殺される(甘粕事件)までが「諧調は偽りなり」。「美は乱調にあり」と「諧調は偽りなり」の間には実
に14年のブランクがある。
97歳の2017年に刊行された文庫版のまえがきに「自分の作品の中で若い人にもっとも読んでもら
いたい作品だ」と寂聴は書き、また、その最後に「この小説を書いて、「青春は恋と革命だ」という考
えが私の内にしっかりと根を下した。」と書いた。
結末に近づくにつれ後日談が知りたくなり、読み終えるのが惜しくなる小説だった。
3 露木肇子さん(法)
『紙の動物園』ケン・リュウ(ハヤカワ文庫)
中国出身でアメリカで活躍するSF作家の短編集である。どの短編も読み応えがあるが、特に書名とな
った「紙の動物園」は感動せずにはいられない。
アメリカ人と結婚した中国人の母親は私達と同世代の1957年生まれ。息子に折り紙で動物を折り、
息を吹き込むと動物は動き出す・・・・・。
短い展開の中で登場人物の思いが胸に刺さり、あまりの切なさで苦しくなる。
SFの世界的な賞3冠に輝く傑作である。
『円』劉 慈欣(早川書房)
これも中国のSF作家の短編集である。
その中の「栄光と夢」を是非読んでほしい。
アメリカとシーア共和国は戦争中で、シーアは経済制裁を受けて国民は飢えで苦しんでいる。そんな中
戦争に決着をつけるため、北京オリンピックを変更し、アメリカとシーアの2ケ国だけのオリンピック
として、勝った方を戦勝国とすることになった。負けても金メダルの数の分恩恵が与えられる。飢えで

ともに練習もできなかったマラソン選手の少女シニは、アメリカの最強女性ランナーに戦いを挑
む・・・・・。
3
他にも奇想天外かつ風刺的な短編がつまった才気あふれる一冊である。
4 首藤典子さん(一文)
『長い道』柏原兵三(小学館)
1968 年、『徳山道助の帰郷』で第58 回芥川賞受賞、著者の祖父日中戦争時代の陸軍中将伊東政喜がモデ
ルになっており、その伊東中将の妹の嫁ぎ先が首藤であるという縁繋がりの作家。『長い道』は後に『少
年時代』の作品名で藤子不二雄A氏により漫画化、山田太一氏脚本で映画化されている。内容としては、
主人公の少年が戦禍を逃れ疎開先で、地元の少年達の輪に入ることが出来ず、悩みもがく日々。唯一の
味方と思っていた地元のリーダー格の少年が実は首謀者であったが、この悩める日々との決別は、終戦
と共に東京へ戻ることによって訪れたところで終っている。小学校高学年の主人公が同じ通学路で登校
する少年達の輪に入れず涙する様子、また疎開先の祖母の家での暮らしや学校の様子、東京に残った家
族から送られてくる本、甘菓子、絵具を家に訪ねてくる少年に与えたりして何とかつながろうとする少
年の姿がいじらしく描かれている。
『小説8 0 5 0』林真理子(新潮社)
引きこもり100 万人の時代、避けては通れない事象の為読んでみたかった作品。引きこもってしまった
らもう誰とも話をしようとはしないが、なんとかその原因を知らなければ解決の糸口がつかめない。
色々と相談したり、実際に行動を起こしたりするのは引きこもった人間ではなく親であると示唆されて
いる気がする。「8050」では父親が引きこもりの原因を、当時の息子の友人に会っていじめがあったこ
とを聞き出し、母親は旧友に相談していたことから、この件で訴訟を請け負ってくれる弁護士を紹介し
てもらう。この弁護士との出会いが運をもたらすが、過去の息子の友人が実際にここまで協力してくれ
るかは難しいのでは。
5 鈴木伸治さん(商)
『ノブレス・オブリージュ イギリスの上流階級』新井潤美(白水社)
イギリスの小説を読んだり、映画やTV ドラマを観たりしていると、爵位のある貴族や「ジェントリ」
と呼ばれる地主を含む上流階級の人物が登場して独特の存在として描かれているが、その独自性の背景
を理解することは難しいものである。
日経新聞の書評欄で、この本を「彼らは実際、その社会・文化の中でどのように形づくられ、語られて
きただろう。私たちが抱く華やかなイメージのどこまでが真実だろう。そんな疑問が氷解する一冊であ
る」と紹介していたことから読んだのだが、この本はそのような本。
『アメリカの病 パンデミックが暴く自由と連帯の危機』ティモシー・スナイダー/池田年穂
訳(慶應義塾出版会)
前記の書評欄の同一紙面に、「世界一の超大国アメリカで、コロナウイルスの犠牲者が最も多いのはな
ぜか。医療ミスにより、生死の淵を彷徨う中で、コロナ禍に遭遇した著者による病床からの緊急レポー
ト!」から興味を持って読んだ本。
アメリカの医療システムや公衆衛生の脆弱さ、人権問題、そして「自由」の真の意味での復活と個人の
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健康とのかかわり、孤独と連帯の相補についての考察を深め、トランプを頂点とするアメリカの権威主
義体制や医療の世界にも及んでいる経済寡占についての批判を展開している。
個人的には若い頃に読んで強い印象が残っている『自由からの逃走』(エーリッヒ・フロム著/日高六
郎訳)に匹敵する本で、多くの方にも是非読んでいただきたい。
『決戦!株主総会 ドキュメント L I X I L 死闘の8カ月』秋葉大輔(文藝春秋)
日本の上場会社の中には、わずかばかりの株式しか保有していない創業家出身者などが圧倒的な力を握
り、自分の思うままに経営するケースが少なからずある。
このため、そのような創業家出身者などがわざわざ外から招いたプロの経営者を追い出すという事例は
散見され、これまではそのまま収まるのが普通だった。
この本では、追い出されたプロ経営者が泣き寝入りせずに戦いを挑み、勝つことはほとんど不可能とい
われる株主総会で勝利を収めたことが記録されている。
この事例をもとに、コーポレートガバナンス(企業統治)の良し悪しを判断することは全くできないが、
それが如何に難しいことであるかは窺い知ることができるのではないかと思う。
6 前田由紀さん(一文)
『教え学ぶ技術――問いをいかに編集するか』苅谷剛彦/石澤麻子(ちくま新書)
「高校の論文指導に携わっているが、生徒が自分の問いに辿り着くまでが一番難しい。自分にとって切
実な問題とは何か。この本は、オックスフォード大学でのチュートリアルという論文の個別指導につい
て解説している。What do you study?の意味でWhat do you read?と問うオックスフォードの教育。
常日頃から何か引っかかることを、すぐにメモ帳に書き留めておくと、日常が面白くなる気がしてきた。
7 宮田晶子(政経)
『映画を早送りで観る人たち』稲田豊史(光文社新書)
映画や映像を早送りで観る人たちが増えているという。ネットには、ファスト映画やネタバレサイトが
溢れ、少なくとも粗筋や内容は簡単に掴める時代だ。しかし、それで作品を味わうことになるのだろう
か?こうした疑問から出発した本書は、現代社会が抱える問題にまで踏み込む。S N S の発達による同
調圧力(みんなの話題にはとにかくついていかねばならない)、個性がもて囃される故に細かいことま
で取り敢えず知っておきたい、また回り道と失敗をとにかく避けたい、という気持ち。これらが(特に
若い人たちを)倍速視聴に駆り立てている。便利になったけど、余裕がない世の中になっているのを実
感(これは日本の国力とも関係あり?)映画や映像はもはや鑑賞されるものではなく、消費されるもの
のようだ。
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次回 第11 回 54 らオンライン読書会
1 1 月2 5 日(金)1 9:3 0 より/ホスト 前田由紀さん(一文)
※11 月、2 月、5 月、8 月の第4金曜日に開催しています。