2022/5/27 第9回オンライン読書会報告

第9回 春の54ら読書会報告 
2022年5月27日

今回も参加者の皆さんの読書への情熱をひしひしと感じるひとときとなりました。
参加者の皆さんは、ご覧の通りです。(発表順)

村山さん、仁多さん、沖さん、篠原さん、福島さん、
山口伸一さん、露木さん、鈴木伸治さん、
益田あけみさん(視聴)、宮田さん、前田 11名

世界の視点による明治維新(村山)⇒養生訓・スパイス(仁多)⇒極上スパイス(宮田)⇒イェール大学の死生観講義(沖)⇒全体主義の起源・養老孟司・メタ自己啓発(篠原)⇒フリーメーソン・お城めぐり(福島)⇒水戸黄門の歴史的意義・Audio Book⇒文化人類学者のファンタジー(露木)⇒文学史における意識の流れ小説の意義(鈴木)⇒須賀敦子作品(宮田)⇒バカロレアの哲学・不便益のすすめ(前田)

なお、これまでの 読書会報告集Book List、もご覧いただけます。

1.村山 豊(法)

◎『官賊と幕臣たち』原田 伊織
◎『明治維新の大嘘
司馬遼太郎の日本史の罠』
三橋 貴明
〇『明治維新の光と影』西原 春夫
△『逆説の日本史』 18-21の4巻井沢 元彦
△『明治維新とは何だったのか  世界史から考える』半藤 一利 出口 治明対談
△『書き換えられた明治維新の真実』榊原 英輔
×『明治維新とは何だったのか』一坂 太郎
×『明治維新という過ち』原田 伊織
×『幕末の大誤解』熊谷 充晃
×『微笑む慶喜』戸張 裕子
×『嘘だらけの日英近現代史』倉山 満

上記「明治維新」関連の全14冊を読了して〇△×の評価を付けた。従来の「薩長史観」すなわち明治政府の文部省が脈々と国民に伝えてきた「明治維新は薩摩藩長州藩を中心とする理想に燃えた下級武士の若者たちが近代国家を作り上げた物語」を脱却して、欧米列強とくに英国が薩長を、フランスが幕府をバックアップした内戦であったという視点がなければ理解できないということだ。

 一級の一次資料が次々とみつかり日本史は古代史から近現代史に至るまで次々に書き換えられている。考えてみれば、一定の職を持たず脱藩した若者(典型例「坂本竜馬」)が日本全国を飛び回り活動していた資金は一体だれが供給したのか。(答えは大英帝国スポンサー)江戸を目前にした東征軍が総攻撃直前で突如停戦に応じた理由(英国パークス公使の恫喝的停戦斡旋 勝西郷会談など後付けの形式)は大英帝国の立場になれば簡単に理解推定が可能だが、エビデンスがないという理由で歴史学会は退嬰していたというわけである。

2.仁多 玲子(商)

『わがまま養生訓』薬剤師・日本漢方養生学協会理事長 鈴木養平、薬日本堂 監修

貝原益軒は、江戸時代の儒学者で、また本草学者であるが、有名な著書に『養生訓』がある。『養生訓』は、日々の生活習慣を、健康法だけでなく、生き方まで言及しているというので、当時ベストセラーになった。今回紹介した『わがまま養生訓』は、忙しすぎて、自分を後回しにしている人に、著者の鈴木養平氏が、独自にポイントをピックアップして漢方の解説を交えながら伝えた本である。私は、この本に、とても感銘を受けた。自分のペースを大事にすることの大切さを感じた。皆さんにも、お勧めの本。

3.沖 宏志(理工)

『死とは何か』シェリー・ケイガン、文響社

「死」というものを宗教的にではなく、論理的に追求した本。「死」というものを語るには、「私」「同一性」「時間(今)」「神」「意識(言語)」「魂」といったものを確定しなければならないが、これらは簡単に確定できるようなものではない。そこで、様々な思考実験を展開して考えさせる。AIが出てきて、「私」「同一性」「意識(言語)」といったものも、より身近で具体的な問題になってきたような気がする。

4.篠原 泰司(一文)

『ヒトの壁』 養老猛、新潮選書

猛さんの「壁」シリーズの最新刊。これまでの「壁」に負けず劣らずの味わいのある本である。初めは科学哲学的な内容に難解さを感じたが、途中からどんどん引き込まれた。多田道雄(免疫学者)、加藤典洋(文藝評論家)らとの交流。そしてご自身の母と兄のことなど。これらの部分は特に面白く読むことができた。心に染み込んでくるような内容の濃さと深さのある一冊である。

『なんでも見つかる夜にこころだけが見つからない』 東畑開人、新潮社

これまで出版されてきた自己啓発本や生き方エッセイなどとは一線を画する、まさに「メタ自己啓発本」(P276)に相応しい一冊。本書の狙いは、わかりやすい解決法をノウハウとして提示することよりも、病んだ自己の心の捉え方を今までにない手法で示すこと。その手法が、処方箋ではなく補助線。「シェアとナイショ」、「スッキリとモヤモヤ」、「ポジティブとネガティブ」、「純粋と不純」の補助線の先に現れる患者たちの心の有り様は本当にリアリティーに溢れており、資本主義の真っ只中を漂う私たちにとっても一読の価値のある本だと思う。

★難解なので正式には紹介しなかったのですが、ハンナ・アーレントの『人間の条件』(ちくま学芸文庫)と『全体主義の起源』(みすず書房 全三巻)も読書会のメンバーにはインパクトが強かったようだ。

5.福島 碧(社学)

『フリーメーソン源流紀行-歴史の源流・古代地母神信仰』清川理一郎著
『キリストと黒いマリアの謎-異端・自由思想・ラテン系フリーメーソン』清川理一郎著
 大学の先輩が著者。隠れた人気がある著者であり、書物である。過去に映画化された。丁度この2月にロシアのウクライナへの侵攻が始まった頃に読み始めたが、これを読むとプーチンは負けると確信した。林董(ただす)氏の名前も、久しぶりにこの本で拝見した。

『収容所から来た遺書』辺見じゅん著
 以前読書会で紹介いただいた本。衝撃的だった。このところピアノソナタをよく聞くのだが、シューベルトのピアノソナタD899&D935、ベートーヴェンのピアノソナタ24-27、30-32を聴くと必ずこの本の山本幡男氏とシベリアの大地に思いを馳せてしまう。

『源頼朝』1-3巻 山岡荘八著
 以前から好きな偉人の生家や住んでいた家をよく訪ねてきた。例えば、ショパンの生家、モネの住んでいた家等。最近は、読んだ歴史書の登場人物に共感すると、そのゆかりのお城を訪ねている。最近は、徳川家康の生まれたお城の岡崎城を訪ねた。次は、小田原城を訪ねたいと思い、この本を読んだ。源頼朝の生が、本当に奇跡のようなもので、また頼朝が20年も忍耐したことに感動を覚えた。

『織田信長』1-5巻 山岡荘八著
 お城巡りで、いつか安土城跡を訪ねようかと思い、この本を読んだ。だが、信長の明智光秀へのパワハラがひどく、多分この本に書かれていないパワハラも沢山あるのではないかと想像され、結果安土城探訪は遠のいてしまった。

6.山口 伸一(理工)

『光圀伝』冲方 丁(うぶかた とう)早稲田大学第一文学部中退。

徳川家康の孫、光圀は水戸黄門として知られるが、彼は悪徳商人退治ではなく、大きく政治に関わっていた。水戸藩を納めるだけではなく、江戸を焼き尽くした大火や疫病への対応や、将軍の後継問題など幕政にも腐心していた姿を描く。「天地明察」をしのぐ傑作。

『国宝』吉田修一 オーディブル 語り 尾上 菊之助
ヤクザの息子が歌舞伎の国宝まで上り詰める物語。フィクションだが昭和から平成まで

の梨園が舞台で、家柄や襲名問題、不倫、バブルの借金、ワイドショーの攻撃など、上下2

冊の長編とは感じない面白さ。菊之助の語りも歌舞伎の場面での迫力は流石。新たな読書の

体験が楽しめた。

7.露木 肇子(法)

『香君』上下 上橋菜穂子、文藝春秋 

作者は「精霊の守り人」等守り人シリーズで著名な児童文学者で、国際アンデルセン賞をはじめとする数々の賞を受賞している。文化人類学者でもあって、人類社会の専門知識が作品に活かされている。「精霊の守り人」はNHKでドラマ化され、「獣の奏者」は同じくNHKでアニメ化されていて、いずれも絶大な人気を誇っている。「香君」はその作者の最新作で、この3月に上下2巻同時発行された。

 今回の作品も、今迄と共通の特徴を有している。まず舞台は地球のどこかだが、大陸あり海あり島ありで、そこに住む人種は様々で、文化・言葉もいろいろである。時代は中世のようで、移動手段は馬や船である。帝国と属国があり、支配者の多くは男性である。その中で異才を有する女の子が人命を助ける活躍をしながら成長していく。また、ファンタジーながらの、この世ではない別の世界と接している場所があって、まれに行き来がある。物語のテーマは、権力とは、支配とは、正義とはというもので、必ず正義が勝つので胸がすく。お孫さんがいれば是非プレゼントしてほしいファンタジー作品である。

8.鈴木 伸治(商)

『ダロウェイ夫人』バージニア・ウルフ、土屋政雄訳、光文社古典新訳文庫

この小説は、保守党国会議員の中年の妻クラリッサ・ダロウェイ夫人が政治家を招くパーティを開催する1日を描いているが、そこでは大した事は起こらず、ダロウェイ夫人ともう一人の主人公であるセプティマスの現在と過去の思い(「意識」)を中心に、二人を取り巻く人々の同じく意識が時の流れに従って淡々と綴られている。このため、ダロウェイ夫人の過去の恋愛とセプティマスの第一次世界大戦の後遺症は分かるのだが、それ以上のことが分からないというのが当初の印象だった。

『若い読者のための文学史』ジョン・サザーランド、河合祥一郎訳、すばる舎

これまででしたら、そのままなのですが、今回は『ダロウェイ夫人』の何が評価されているのか理解するため、次の本を読んでみた。この本の中で、バージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』は「意識の流れ」という技法をウルフが最も巧みに用いた作品としてとして紹介されている。そして、ジェイムズ・ジョイスの小説『ユリシーズ』の最終部分の「何ページにもわたって句読点のない」文章について、それが「一種の『意識の流れ』であり、私たちが本当に生きている場所とは、自分の心の中であると、ジョイスの小説は主張している」と指摘している。日々の自分を振り返ってみて、いかに多くの時間を「意識の流れ」の中で過ごしているか、『ダロウェイ夫人』は、そのようなことを強く認識させてくれた本である。

また、『若い読者のための文学史』は、そればかりか、カバーに記載されているように、「なぜ私たちはここにいて、どう生きればいいのか。あらゆる文学が、作家が見出した真実を答えとして提示する。本書では、社会に衝撃を与え、商業的に成功し、後世の書籍に残った魅力的な作品を、たっぷりの情報とともに面白く語り尽く」している本である。この本は、ウィリアム・H. マクニール著『世界史』を読んだ際の興奮に似たものを感じさせてくれた。

9.宮田 晶子(政経)

『コルシア書店の仲間たち』須賀敦子/白水Uブックス

『ミラノ 霧の風景』須賀敦子/白水Uブックス

どちらも、1960年から十数年ミラノに住み、カトリック左派が拠点とする書店「コルシア・デイ・セルヴィ書店」と関わった須賀敦子さんのエッセイ集。ミラノをはじめ、各地で出会った多くの人々を通じてイタリアの思い出を綴っている。彼女の人を見る目の確かさと、とても練られた文章によって、どんな思い出が語られても、その光景やその人物の人となりが鮮やかに思い浮かぶ。

10.前田 由紀(一文)

『バカロレアの哲学 「思考の型」で自ら考え、書く』坂本尚志、日本実業出版社

 フランスの高校生は、哲学が必修で、卒業試験で一つの哲学的問いに対して答える4時

間の筆記試験がある。抽象的な命題に対して、導入⇒展開⇒結論という流れの中に、

抽象的な言葉の定義、自分の論の反対意見を尊重するなど書き方の実践を公開している。

『不便益のススメ 新しいデザインを求めて』川上浩司、岩波書店

技術は、生活をより便利にするために進歩してきた。しかしこれからの未来、この便利さを追求するあまり失ってしまう価値もあるのではないか、あえて手間をかけることで、新しい価値、発想、アイデアが生まれることを示唆してくれる。不便さを自ら取捨選択し主体的に生きる。素数しか目盛りのないものさし、消えていくナビ、その店限定京土産など開発した京都大学情報学研究者からの新鮮かつ貴重な提案である。

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これまでのBook List
次回 第10回 54ら読書会
8月26日(金)ホスト 宮田晶子(一文)
※11月、2月、5月、8月の第4金曜日 
19:30~21:00実施予定