2022/2/25 第8回オンライン読書会報告

2022年2月25日
第8回オンライン読書会を開催しました

【参加者】
益田聡(理工)、篠原泰司(一文)、沖宏志(理工)、露木肇子(法)、
梶田あずさ(一文)、山口伸一(理工)、福島 碧(社学)、中山隆(理工)、
仁多玲子(商)、村山豊(法)、前田由紀(一文)、宮田晶子(政経)
(以上12名、一部参加の方も含む)

54ら会イベントで静かな人気の読書会。
会を重ねて今回で第8回を迎えました。
常連の皆様、お久しぶりの方、そして初参加の方もお2人お迎えして、今回も楽しい会になりました。
紹介された本は絵本から、同窓の多和田葉子氏の著作、アカデミー賞で話題の村上春樹の『ドライブ・マイ・カー』、江戸末期に生まれた女性イコン画家の生涯を描いた小説、シベリア抑留者のノンフィクション、150人が150人に東京での生活を聞いたインタビュー集、そして読書会で人気の原田マハ氏の小説などなど、いつものように、バラエティに富んでいます。
また、Japan Problemについて述べられた本の紹介から、日本の生産性について、リーダーについて、議論が白熱したのも印象的でした。

以下は当日、挙げていただいた本を発表者のお名前とともに紹介いたします。
推しの本について、それぞれ長いコメントをいただいており、
それをそのまま(文体は常体に統一しました)掲載しております。

このラインナップを見ると、あまりにさまざまで逆につまらないんじゃない?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
いやいや、この雑多な感じが読書会の醍醐味です。
お越しいただければ、この面白さがお分かりになると思います。
皆様のご参加をお待ちしております。

なお、これまでの 読書会報告集Book List、もご覧いただけます。

1 益田聡さん(理工)
『いのちのまつり「ヌチヌグスージ」』 草場一壽 作/平安座資尚・絵(サンマーク出版)
4歳の孫に命の大切さを伝えたくて、この絵本を手にした。
この絵本の目玉、先祖から命は繋がれていることが
一目で分かる絵(あっというようなびっくり仕掛け)が
いのちの大切さを伝えている。
以前、小学校3年生の道徳の副読本として使われていると聞いた。
孫には早すぎるかと思っていたが、今回の読書会で、幼稚園で中高生が読み聞かせをしているという話を教えてもらった。
皆さんのお孫さんにおすすめの絵本。

2 篠原泰司さん(一文)
『地球にちりばめられて』 多和田葉子(講談社文庫)
一文出身でドイツのハンブルク在住の小説家多和田葉子さんが2018年に出した小説。
「世界のどこかにあるはずの自分と同じ母語(日本語)を話す者を探す旅」の物語。
メタファーに満ちていて不思議な感じを味わえる。私の場合、せつない郷愁みたいな感情を感じながら読み終えた。
第8章の「Susanooは語る」は演劇的で特に面白かった。
多和田葉子さんは国際的に評価が高く、ノーベル賞候補でもあるらしい。

『エクソフォニー 母語の外に出る旅』 多和田葉子(岩波現代文庫)
エクソフォニーとは母語の外に出た状態。
例えば母語の日本語を離れてドイツ語の世界で創作するとかいうことではなく、
言語と言語の間にあるあわいみたいな場に生きることらしい。
世界各地に滞在して感じた作者の気付きや感慨がつづられた随筆集。示唆に富んだ内容に溢れている。

『女のいない男たち』 村上春樹 文春文庫
2222年アカデミー賞四部門にノミネートされた映画『ドライブマイカー』の原作は、
この本の最初の方の部分P19~P70に収録されている短編小説。
読んでから観るか観てから読むかの選択で、私は後者を選択。
結果としての感想は、どちらが先でもかまわないのではないかと感じた。
短編小説では描き切れなかった主題の掘り下げがあり、新たなエピソードもいくつか加えて重層性と厚みのある映画を作り上げているように思う。
アカデミー賞を受賞できればいいと思う。

3 沖宏志さん(理工)
『2022年再起動する社会』伊藤千秋(高陵社書店)
富士通の元副社長で、P C部隊だった時、上司だった人の書いた本。
コロナ後の社会について述べており、情報bitが多いわりに、軽くて、アッという間に読める。
Japan Problemについても多々述べている。
・電子政府で進んでいる韓国は実は日本のすぐれた実証実験を参考にした。
 -やる事がわかっていてもそれを実施できない日本人。
・日本のIT産業の労働生産性がアメリカの1/5なのはやらなくてもいい仕事をしているから。
・ファイザーは、開発方針に関する意思決定をトップ層からボトム層に移すというカイゼンをやって、ワクチンを開発した。
 -米国内の評判が「強欲な会社」から「命を救う会社」に変わった。
しかし、個人的意見としては、日本では「賢い人の上に賢くない人がいる。(Wrong order)」
というのがJapan Problemの一番の本質的問題….と思っている。

*「労働生産性」については、他の方からも意見が出て、議論が沸騰しました。

4 露木肇子さん(法)
『白光』 朝井まかて(文藝春秋)
日本初のイコン画家、山下りんの生涯を描いた小説である。
山下りんは、1857年の江戸末期に茨城県笠間市で生まれ、
1939年の昭和初期に同市で81歳で亡くなった。
その美しい宗教画は、函館のハリストス正教会や神田のニコライ堂で見ることができる。
りんは、女性は嫁にいくのが常識という時代に画家を志し、日本画の時代に西洋画を目指し、
宗教が未だ弾圧されていた時代にロシア正教に入信し、
留学先のロシアの修道院でイコンを強制されると、
色彩豊かなイタリア画を望んで抵抗した。
1868年の明治維新、1890年の宗教の自由を制限的に認めた明治憲法制定、
1904年の日露戦争、1917年のロシア革命という激動の時代にロシア正教信徒は翻弄され、
日本で、さらにはロシアでも弾圧されていく。
りんは次々と襲う苦難の中でイコンを描き続けながら、それに込められた意義を次第に理解していく。
小説の最後に書かれたりんの心境は、私達の世代になってようやく共感できるものかもしれない。
なお柚木麻子の「らんたん」も、明治時代にアメリカに留学し、恵泉女学園を創立した河井道を描いたもので迫力あった。
津田梅子の新札を契機に、女性の道を切り拓いてきた女性達が、さらにクローズアップされていくことを期待したい。

5 梶田あずささん(一文)
『東京の生活史―― 一五〇人が語り、一五〇人が聞いた 東京の人生』 岸政彦編(筑摩書房)
本の厚さ約6.5㎝、重さ約1.4kg、1216頁、およそ150万字。
一般公募による150人の聞き手が、それぞれ知り合いの、東京にゆかりのある150人にインタビュー。
いまを生きる人びとの膨大な語りを、コラージュのように一冊に集めた本である。
聞き手、語り手のプロフィールなどは一切記されておらず、偶然のように並べられた自分についての150の語りからは、その人の人生の断片が生々しく浮かび上がってくる。
私は父母が亡くなってから、
父や母はどんな思いをもって生きてきたのか、ちっとも知らなかったなぁ、
という思いにとらわれたりするのだが、
この本は、「語るに足らない人生などない」と言ってる気がする。
まだまだ読み始めたばかりのこの本を、一話一話、大切に読んでいきたい。

6 山口伸一さん(理工)
『収容所から来た遺書』 辺見じゅん(文藝春秋)
日本の敗戦が決定した後、突如、不可侵条約を破り参戦したソ連により、
中国で武装を解除した日本兵や満鉄の職員は強制的に酷寒のシベリアに労働力として収監された。
本書は満鉄職員だった山本幡男(写真)が収容所で病死し、
その遺書を戦友が一字一句覚えて、彼の家族に伝えた実話。
シベリア収容所は政治犯を収監する監獄で、日本兵は寒さと飢え、
ソ連兵の恫喝、兵隊同士のいがみ合いなど劣悪な状況に苦しんだ。
その中で山本は希望を失わず、戦友達に俳句や演劇などを通して周囲を励ましながら、日本へ帰国することだけを念じていた。
が、病に冒され病死する。
彼は遺書を家族に残したかったが、日本兵がメモを残すことは許されなかった。
そこで、彼を慕う友人や後輩、上司までが遺書を分担し、一言一句間違うことなく覚え、
帰国して家族に伝えることを決するのである。
ソ連兵の目をかいくぐり、それぞれの方法で暗記した遺書は家族に伝わった。
シベリアでの理不尽な収監に憤慨しながらも、このような状況を受け入れ、
その中でよろこびや楽しみを見出し、最後まで帰国を諦めない山本幡男はまさに好漢。
もしも同世代で学生時代に知り合えば、一生大切にしたい友人になったに違いない。
彼は東京外語出身であるので、接点はなかったろうが。
日本人として嬉しくも誇らしくも思うが、その一方で、受け入れてばかりで戦おうとしない姿勢には
日本人の大人としての美徳であるが、弱点を感じてしまう。
今の緊張高まる国際情勢では、ソ連、中国、北朝鮮などの野蛮な国家にはこの態度はまさに思うつぼである。
ウクライナや台湾、ウズベキスタン等の国はもちろん他の国からは
何もしない楽観主義にしか見えないのではないかと心配になる。
耳をすませば解決を諦め、言いなりになりましょうと言うメッセージが聞こえてくるようだ。
山本幡男は友人としては素晴らしいが、現代の政治家としては狡猾さ欠落している。
まあ、政治家に限ったことではないが、自分だけのことしか考えない狡猾さを持っていないと現代は生きていけないのではないかと感じてしまう。いじめ問題や過労死、うつ病の増加、フェークニュースやネットの炎上、さらに核保有とミサイル開発など今の状況はラーゲリよりはるかに複雑である。
この複雑な社会をどう生きるべきか山本と話がしたかった。

7 福島碧さん(社学)
『渋沢栄一 上 算盤編』『渋沢栄一 下 論語編』鹿島茂(文春文庫)
第7回の読書会で教えていただいた。
商売(仕事)の心得を知りたいと思い、読んだ。感激、感動の連続だった。
もっと早く読めばよかったと思う。また後日読み直してみたいと思った数少ない本の一つ。 

『新太平記 1〜5巻』山岡荘八(山岡荘八歴史文庫)
山岡荘八シリーズの一環で読んだ。
徳川家康や明治天皇も、太平記を幼い時に読んで勉強したと知り、読んでみたいと思った。
登場人物の楠木正成の生涯に感動した。
“人間には、信念のためにしか生きられない者と、そうでない者の2種類があり、
自分の子どもたちがそのいずれであるか見極めて育てるように。“
と楠木正成は奥方へ言い伝えて戦場へ旅立った。
この言葉は、何度も繰り返し登場する。

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ(早川書房) 
以前の読書会でご案内いただき、またお客様に勧められたため読んだ。
途中で苦しくなり、読み続けられず中断したりした。サスペンス&ロマンス小説。
著者は、70才でこの小説を初めて書いたとのこと。このことにも、深い感銘を受けた。

『天、共にあり』中村哲(NHK出版)
『わたしはセロ弾きのゴーシュ』中村哲(NHK出版)
第7回読書会でご案内いただいた本。人間が生きて死ぬことの大切さを教えていただいた。

『楽園のカンヴァス』原田マハ(新潮文庫)
美術館巡りが趣味とお客様に話したところ、是非この本を読んでと薦められた。
画家ルソーにまつわるサスペンス&ロマンス小説。面白かった。

『たゆたえども沈まず』原田マハ(幻冬舎文庫)
『ジヴェルニーの食卓』原田マハ(集英社文庫)
『モネのあしあと』原田マハ(幻冬舎文庫)
『ゴッホのあしあと』原田マハ(幻冬舎文庫)
『リボルバー』原田マハ(幻冬舎)
美術好きにはたまらない。
フィクションとはいえ、どのようにしてマティスやドガ、ゴッホやモネが絵を描いていたのか、その背景がわかる気がして、とても面白かった。

8 前田由紀さん(一文)
『言の葉の森 日本の恋の歌』チョン・スユン、吉川凪訳(亜紀書房)
韓国の日本語翻訳家である著者が、万葉集や古今和歌集などの和歌を韓国語訳して、
日本語現代語訳と対比し、所感を記している。
古き時代と現代、そして日本文化と韓国文化が時を超え、
国を超え重なり合う不思議な文学空間がそこにある。
早稲田の大学院での留学した日々も描かれている。
人生の華やぎ、切なさ、物悲しさが詰まった本である。

『ライオンのおやつ』小川糸(ポプラ社)
最近は、健康が気になる年代であるが、どんな終末を迎えたいか。
瀬戸内の島にあるホスピスに訪れた若き主人公が、終末期穏やかな時間を過ごす。
「ライオンのおやつ」とは何か、読んでからのお楽しみとしたい。
こんな終末を迎えたいと思わせる温かく、優しい時間が流れる。
悲壮感より自然にもどっていくような安心感があり、満たされた気分に包まれた。

Don‘t Look Up、Netflix
こちらは、地球の終末期を描いた作品。
彗星衝突という地球の危機をたまたま察知した冴えない天文学者と助手が、
世界中にその事実を伝えようと奔走するが、メディアや国の中枢部に翻弄され、
地球を救う機会を逸してしまう。
さもありなんと思わせる人間の愚かさを克明に描いている。
富裕層は宇宙船で脱出するが、家族と手を繋ぎ地球と運命を共にする庶民のほうが幸せにみえる。

9 宮田晶子(政経)
『本日はお日柄もよく』原田マハ(徳間文庫)
近年、あまり小説を読んでいなかったが、読書会で人気の原田マハさんの本を読んでみることにした。
原田さんは元キュレーターで、美術がテーマのものから入るのが良いかしらとも思ったが、
「本日はお日柄もよく」というタイトルに惹かれてこちらを選んだ。
日本ではあまり馴染みのない職業、スピーチライターのお話。
主人公は鎌倉に住んでいて、祖母は俳人でという設定が私にかぶることもあり(私は鎌倉在住、俳人とはとても言えないが、少々俳句をたしなむ)、その点でも親近感があった。
何より、職業柄、わかりやすく多くの人を納得させる文章やタイトルを作りたいと思っているので、
言葉の力をテーマにしたこの話はとても興味深かった。
ただし、ストーリー展開は予想がつくし、出てくるスピーチについてもいまいちなものもある。

【今回は皆の発表の聞き役として参加された方からも感想をいただいています】
中山 隆さん(理工)
皆様のコメントを興味深く拝聴しておりました。
また、発表対象がテキストベースの紙の本に限定されていなかったところも面白く感じた次第です。

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5月27日(金)ホスト 前田由紀さん(一文)
※11月、2月、5月、8月の第4金曜日 
19:30~21:00実施予定